« 2008年8月 | トップページ | 2008年10月 »

2008年9月

2008年9月25日 (木)

治らないクシャミ・鼻タレ

また、「治らない」話なのかと、がっかりされたり、ここの病院、何にも治らないんじゃないかと誤解されると困るんですが。こういった「治らない」病をかかえた猫ちゃん達と一緒に、世の獣医さん達も、実はかなり困ってるんです。もちろん、一番困ってるのは、猫ちゃん自身や、日々、心苦しく感じられているオーナーさん方なわけで。「どうにかならないでしょうか?」とご相談いただくことの多いテーマのひとつでもあります。

そもそもは、猫ちゃん同士で感染する、ヘルペスウイルスやカリシウイルスによるクシャミ、鼻水、咳、結膜炎、口内炎といった、俗に猫風邪と呼ばれる感染症に始まるのが通常ですが、長期間患い続けたために、慢性化してしまったケースでは、そこからの完治はなかなか難しいことがほとんどで、いかに少しでも良い状態をキープしていくのが目標となります。

鼻腔奥の骨までが侵される慢性副鼻腔炎をおこしたり、重症の場合は、前頭洞という鼻腔の奥、額の下あたりの頭蓋骨の空洞域に膿が貯まり、蓄膿症になっていることもあります。

第一段階目の治療法としては、抗生物質や消炎剤の投与ですが、猫ちゃんにいる細菌と抗生物質の種類がうまく合わないと、効果がないこともありますし、うまく快方に向かうケースでも、1~2ヶ月間程度の長期間の服用が必要になります。

他の対策としては、ネブライジングといって、抗生物質や消炎剤を霧状にして吸引する治療法です。医療用の機器ですと、呼吸器の隅々まで入り込める、かなり微細な霧にすることができますので、直接、薬を運びこめますし、潤いが細菌や分泌物の排出も促してくれるので、鼻の奥のグズグズ感を良くするのに役立ちます。

もっと、鼻詰まりがひどい猫ちゃんには、鼻腔洗浄という方法もあります。ようは、鼻うがいです。鼻の穴から洗浄液を勢いよく入れて、ノドの奥で回収します。もちろん、全身麻酔が必要ですので、その点が大変ですが、同時に、鼻腔奥から採った分泌物を培養検査することで、有効な抗生物質の種類を調べることが出来たり、全身麻酔下でないと無理な、口の中から上顎を撮影するレントゲン検査で、副鼻腔炎や蓄膿症の程度をある程度、把握することもできます。

完全に蓄膿症になってしまった場合は、手術で膿を取り除くこともされていますが、それでも、やはり「治る」ということは難しく、状態の緩和が目的の手術で、その後もフォローは続けていってあげなくてはなりません。

L-リジンというアミノ酸のサプリメントが、ヘルペスウイルスへの対抗力のサポートになります。それだけで、良くなるというものではありませんが、コンディション維持のためには、とても役立ちます。味も良いので、フードにふりかけておけば、たいてい食べるようです。

こんなに、色々云ってしまうと、「それ…全部、しなきゃダメ!?」と、ぞっとしてしまうかもしれませんが、決して、そういう訳ではありません。症状の悪さ加減や、内服ができない、もしくは通院ができないなどの猫ちゃん側、オーナーさん側のご事情に合わせて相談です。

完治は難しくても、「鼻タレもご愛敬!」なかんじで、ご機嫌!元気!で暮らせるように、コントロールしてあげたいものです。

|

2008年9月18日 (木)

朝帰りのワケ…夜遊び?喧嘩?事故?

今、大流行りの綺麗なロシアンブルーのアルちゃん。怪我や病気を心配されて、脱走しないよう気を付けてはいらっしゃるそうなんですが、よほど利口なのか、すばしっこいのか、どうしたって脱走癖を阻止できないそうなんです。ロシアンブルーがそこら辺を歩いてて、誘拐されたりしないんだろうか、とも、私は心配しているのですが。

いつもは、ちょっと、家の周りを散歩して戻るそうなんですが、先日、まる2日間帰ってこず、あきらめかけていた朝、フラッっと朝帰り。で、ホット安心。少しごはんも食べて、もひとつ安心。…ですが、横になって眠りはじめるとピクリとも動かず。前足と耳に怪我もしてるし…、何かあったのかしら…coldsweats02と、大慌てで来院。

前足のパッドがめくれたような傷と、耳に擦り傷。それ以外に目立った外傷はありませんが、ハッと心配になったのが、交通事故です。もちろん、怪我によっては、多量の出血をすることもありますが、意外と外傷がないことも多いんです。車にはねられても、フワッとはね飛ばされ、うまく受け身態勢をとれれば、骨折や出血するような怪我をせずに済みます。ですが、全身打撲で内臓にはそれなりの大きなダメージが及んでいますから、油断は禁物です。

前足のパッドがめくれてるのは、はね飛ばされて着地したときの怪我かもしれません。そんな心配をして、身体にダメージが出ていないかを調べるために、血液検査をしましたが、筋肉や内臓のダメージで上昇する数値には異常ありませんでしたので、どうやら、事故には遭っていないらしいと安心。confident

とすると、前足と耳の怪我は、近所のやんちゃ猫さんとやり合ったんでしょう。それで、追いやられてしまって、帰ってこれず、どこかを歩きまわっていたんだか、それとも、どこかに隠れて出て来れずに2日間過ごしていたんだか…。ピクリとも動かなかったのは、具合が悪くてではなく、よほど、疲れていたからなんでしょう。爆睡してたんですね~。なんて、笑い話で済み、良かったのですが、やっぱり、お外は危険がいっぱいで怖いですね。

それと、事故といえば、猫ちゃんはベランダや窓からの転落事故も多いので、ご注意ください。まさか、落ちないだろうと思われるんでしょうが、猫ちゃんは何故か落ちます。落ちるのではなく、飛び降りる(?)のかもしれません。下で動くものを眺めているうちに夢中になり、ハンター本能の赴くままにジャンプ!…なのか、もっとよく見たい、と身を乗り出してるうちに、ズルッと踏み外してしまうんだか。本心は定かでありませんが。

で、やっぱり、うまく着地できたり、やわらかい植え込みに落ちた時は、これといった外傷が見当たらないことがほとんどです。案外、2階から転落するよりも、3階から転落したときのほうが、地面に落ちるまでの滞空時間が長くて、態勢を整える余裕があるからか、外傷が少なくて済むなんて話を聞いたことがあります。さすが、猫ちゃんですよね。それでも、その分、全身のダメージは大きくなりますから、あくまでも「見た目」だけの話です。

ベランダや窓からお外を眺めるご趣味をお持ちの猫ちゃんには(みんな大好きですよね)、くれぐれも、転落しないように対策しておいてあげてください。

|

2008年9月13日 (土)

猫エイズウイルスワクチン

先月、猫エイズウイルスワクチンが発売されました。

猫エイズウイルスは、12年前に発見されていながら、ワクチン開発にはかなりの年数を要したわけです。しかし、そのウイルスの特性ゆえにワクチンは作れないともいわれていましたので、ワクチンができたことは画期的なことです。

15年位前でしょうか。猫白血病ウイルスのワクチンができたときも画期的なことでした。ただ、発売時には、予防率は70%ということでしたので、役に立つんだろうかという心配もありました。ですが、メーカーが発売にあたり出したデーターは、大量のウイルスを直接投与しても感染しないかを調べての予防率ですから、実際の生活の中での感染予防率は、もっと高いだろうともいわれていました。それは、猫エイズウイルスワクチンも同じことのようです。

ヒトのエイズウイルス(HIV)と非常に近いウイルスなので、FIVと呼ばれるようになりましたが、ヒトに感染することはありません。ヒト、ネコ以外にも、サル、ウシ、ウマに発見されています。ネコ科のライオンなどにも発見はされていますが、ネコのそれとは異なる仲間なんだそうです。

FIVに感染しても、すぐに症状がでるわけではありません。急性期と呼ばれる感染後2~3ヶ月間は、体内で免疫系の変化は始まっているものの、外観上わかる症状はたいていありません。その後、2~4ヶ月間、一過性にリンパ節が腫れることもありますが、全く症状のない無症状キャリアーとなり、数年間(平均5年間)潜伏します。早期に発症するか、もしくは発症せずにすむかは、健康状態や飼育環境に大きく左右されます。免疫機能の低下が影響し始めるエイズ関連症候群期に入ると、通常1年程度で、免疫不全状態であるエイズ期に移行します。この状態からは、数ヶ月で亡くなってしまいます。

FIV感染を治す治療方法は残念ながらありません。ヒトのHIV感染で使用する抗ウイルス剤は、ネコには副作用が強く、効果もあまり無いため使われていません。ネコのインターフェロンで免疫力の手助けをしてあげることはできますが、治るわけではありませんし、いずれ、体調をそこなってしまう怖い病気です。それに、一般の動物病院でも、頻繁に診ることがあるほど、お外では大流行してしまっているのが大変なことです。

もちろん、外の猫ちゃんとの接触が無いようにできれば、感染する心配はないのですが、自分で窓を開けてお出かけしたり、一瞬の隙をねらって逃走を繰り返す、つわども猫ちゃんや、同居猫ちゃんにFIV感染してるこがいるけど、100%の隔離ができない…そんな、猫ちゃんには朗報かと思います。

FIV感染している猫ちゃんに接種したら、FIVに対抗する力がつかないんだろうか!?この件に関しては、まだ、研究中なんだそうです。早く、発症を抑えるものが開発されてほしいものです。

現在のところ、猫エイズウイルスワクチンは、混合ワクチンに含まれず、それだけを別に接種しなくてはなりません。初年度は、3~4週間間隔で3回接種をして、その後1年毎に追加接種していくようになります。

猫白血病ウイルスワクチンが開発された時も、混合ワクチンはありませんでしたので、同じことでした。何度も来院いただく必要があり、それが大変でしたが、今は混合ワクチンができています。いずれ、猫エイズウイルスワクチンも、混合ワクチンに組み込まれたものが開発されれば良いですね。

|

2008年9月 4日 (木)

治らない口内炎

もう、これは、永遠のテーマなのかもしれません。どんどん進歩する獣医療の中で、このテーマだけは、画期的な進歩のないままではないでしょうか。

それ程、こじれることなく治る口内炎もあります。歯石やそれに伴う歯槽膿漏による口内炎は、全身麻酔下で、歯石除去や抜歯処置の治療をすることで、すっかり良くなってくれることがほとんどです。このケースの場合は、たいてい、歯石がごっつり付いてる付近の歯肉や歯槽膿漏がひどい歯の周囲を中心とした歯肉に炎症が生じています。

治らない口内炎。そのうちで、ある程度の原因、診断がつくものには、猫エイズウイルスや猫白血病ウイルス等の免疫力低下を招くウイルスの感染症。俗に猫風邪と呼ばれる症状で、口内炎も起こすウイルスであるカリシウイルスの慢性感染。アレルギーに関与する白血球である好酸球が口内、口唇に集まって炎症を起こす、好酸球性潰瘍。そして、歯肉や口腔内に発生する様々な腫瘍です。

ウイルス感染は血液検査で、好酸球性潰瘍や腫瘍は病理検査で、診断を得ることはできますが、予後はなかなか厳しいものです。

ウイルス感染は完治するものではないので、症状の緩和が目標になります。抗生物質やラクトフェリンという糖蛋白でで口内の細菌を抑えたり、鎮痛消炎剤で痛みのコントロールをしたり、インターフェロンでウイルスに対する抵抗力を高める対策を講じていくのが一般的かと思います。

好酸球性潰瘍は、アレルギーに関与する白血球の悪行ですから、何かしらアレルギーの原因を探って、対処することも必要でしょうが、それだけでは、どうにもならないほど悪化してしまうことが多く、継続的に副腎皮質ホルモン剤に頼って、症状緩和を図っていくしかないのが通常です。

そして、腫瘍ですが、猫の口腔内にできる腫瘍は、悪性のものが多いとされています。その部位によっては、顎の骨や、鼻腔内へも広がっていきます。治療としては、手術で取り除ける場所なら、手術のうえ抗癌剤や放射線治療というのが積極的な治療になりますが、それでも、「治る」という確証はありません。

こんなにも、「治らない」と並べていると、無力さに悲しくなりますが、本当に、やっかいなのは、これらのいずれにも当てはまらない口内炎です。たいてい、歯肉だけでなく、喉の方まで、口内全体がまっかっか。ヨダレを垂らし、鳴くときもできるだけ口を開けないように「ナ~pout」。口内を診せてもらおうと、少し口を開けただけでも、あまりの痛さに「ギャー!」っと本当に飛び上がってしまいます。

世界のお偉い獣医さんがおっしゃるには、猫ちゃん側に、口内細菌や自分の歯にまでも過敏症を起こしてしまう免疫異常があるからなんだとか。ですので、対策としては、過敏症を起こすきっかけとなる細菌を、抗生物質やラクトフェリンという糖蛋白で減らしたり、副腎皮質ホルモンで過敏症を抑える治療。ここまでは、他の口内炎でも共通の対策ですが、よほど、過敏症の強いケースでは、自分の歯さえ異物として反応してしまうので、歯を全部抜いてしまう…という試みが有効だとされています。

ただ、「有効」なのは40%で、しかも「治る」のではなく、「緩和された」ことを云っていますので、つまりは、「40%で緩和、60%は改善なし」。それって、「有効」って云えるのか、と思ってしまいます。それでも、はるか数十年以上前から、世界の獣医さんが数々のトライをされてきた中で、今のところ、全抜歯(通常、前歯とキバはのこす)が最も、「有効」とされているのです。

ただ、私の経験では、多少でも炎症の程度が軽くなったり、痛みがひどくなる頻度が減ったり、ひどくなった時の治療反応が良くなったりと、私としては「有効」と思えるケースが多いのです。わずかでも良くなったケースを含めれば、40%とはいわず80%くらいは有効なのではないかと思います。そもそも、この40%というデータは、オーナーさんが「良くなった」と評価するかを基準にしているそうなので、きびしい評価も含めての数字ですから、実際は、もう少し有効率が高いのではと思います。

とはいっても、完治するわけではありませんから、この「治らない口内炎」をかかえている猫ちゃんは、本当に大変なんです。いつか、画期的な治療法がみつかるといいのですが。

こういった、「治らない口内炎」は、猫ちゃん独特です。犬、ウサギ、フェレット、ハムスター等々、ではみないことです。ところで、ネコ科のライオンやトラにもあるんだろうか。ふと、そんなことを考え、サファリパークに勤務されていた経験のある元同僚の先生にお尋ねしたら、猫ちゃんと同じような口内炎の事例は経験が無いそうですが、猫腹膜炎ウイルスに感染したチーターがいたので、猫エイズウイルスや猫白血病ウイルスにも感染するはず。免疫不全から口内炎を生じることはありえるのでは…というお話でした。

あと、オラウータンは、お口のトラブルが多いんだそうです。何故でしょう。また、お聞きしておきます。

|

« 2008年8月 | トップページ | 2008年10月 »