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2009年5月

2009年5月25日 (月)

皮膚生検

あまり、聞き慣れないかもしれませんが、皮膚病の検査のひとつで、皮膚を切り取って病理検査をすることです。検査のために、皮膚を切り取るなんて!と驚かれるかもしれません。

皮膚生検用の直径3~5mmの円形の刃があり、クッキーを作るときに型抜きするようなかんじで、ちょこっとだけ、数ヶ所の皮膚をくりぬきます。よほど、大騒ぎするこわがりやさんでなければ、局所麻酔で採取できますし、1糸か2糸、縫合する程度の小さな傷です。

採取した皮膚は、検査センターに送って、病理検査をしてもらいます。病理検査とは、採取したものを構造が変わらないように固める処理をした後に、薄くスライスして染色し、顕微鏡で観察する検査です。

それで、何が解るのか…ですが、皮膚の構造をそのまんまに観察することでしか解らない特殊な病気があります。自分の皮膚に対する、異常な免疫ができてしまい、自分で自分の皮膚を攻撃、破壊することで生じる皮膚炎は、この検査でないと確定診断できません。そして、この病気の治療には、高用量の副腎皮質ホルモン剤(ステロイド)や免疫抑制剤を使わなくてはならないので、その副作用を考えると、試しに治療してみるというわけにはいきませんので、確定診断が必要になります。

皮膚病にみえて、実は、腫瘍のことがあります。腫瘍と聞けば、しこりをイメージしますが、しこりにはならず、皮膚の表面を破壊して、皮膚炎のようになる腫瘍もあるのです。とくに、初期の段階では、皮膚生検でないと区別がつきません。

この2つのように、重篤な問題でなかったとしても、皮膚生検は、有意義な情報を与えてくれます。皮膚深部に寄生するダニが見つかることがあります。もちろん、その前段階で、皮膚をこすり取ったものの中に、ダニが出てきていないかという方法で、何度も検査してはいるのですが、よほど深部に寄生していると、皮膚生検でしかみつからないこともあるのです。同時に、免疫疾患でも腫瘍でもないことも証明されますので、確信を持って治療にあたれるのです。

見るからに、細菌感染で生じる皮膚病なのに、抗生物質を使っても、十分良くならないケースも、皮膚生検がすすめられます。通常、感染を起こしやすい、皮膚表面でなく、皮膚深部に細菌感染をおこしていることがあります。治療方法に間違いはなかったのですが、通常の皮膚表面の感染なら、2~3週間で治るのですが、皮膚深部に感染起こしている場合は、2~3ヶ月間の治療が必要とされています。ですが、なかなか良くならないからと、治療を中断、再び悪化して再開するといった具合で、中途半端な治療を繰り返すことで、ますます、複雑化して治らなくなってしまいがちです。皮膚生検で、容易に治らない理由が解っていれば、なかなか良くならないことに、不安を感じることなく、2~3ヶ月間もの長期治療を継続できるというものです。

アレルギーによる皮膚病なのか、そうでないのか。これもまた、悩まされることです。皮膚生検では、皮膚に生じている反応をそのまま観察できますので、アレルギー反応で出てくる細胞がでていることが、その証明になります。では、何のアレルギーなのか…については、血液で調べる抗体検査や、食べ物を順番に試してみるなどの方法で追及しなければなりませんが、アレルギーだと確信を持てる事は、長く付き合っていかなければならないという覚悟ができますので、何か解らずいるままよりは、気持ち的に楽かもしれません。

皮膚病は、何が原因でも、たいてい、プツプツができて、赤くなって、毛が抜けて、舐めこわしてしまうと、湿ったかんじの赤いただれになって…と同じような外観をたどりますので、診ただけで、コレと解るものではありません。

皮膚表面にいる雑菌の種類を調べたり、寄生虫がいないかの検査をしたり、細胞の検査をしたり、はたまた、試験的に治療して反応をみてみることもあります。それでも、治まりが悪い場合や、いかにも普通でない場合には、ちょっと、抵抗あるかもしれませんが、この皮膚生検にすすんだ方が、結果、周り道せずに、治療方針をたてる事が出来るということもあるのです。

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2009年5月18日 (月)

鳴かないこ

ワンちゃんを飼い始めた方から、時々、お受けする相談。「このこ、今まで、鳴いたことが無いんです。声がでないんでしょうか?」ひどく、心配されていらっしゃるのですが、「鳴かないんですか?鳴けないんですか?」そう、ご質問すると、たいてい「…?…」

声が出ないことを解っていて、発声することをしないでいるのは、人間ならではのことであって、動物には、そのへんのことは理解できないものです。たとえ、声がでない状態であっても、鳴きたければ、鳴こうとします。かすかなしゃがれ声や「ハッハッ」という息を吐く音だけで、声にならなくても、鳴こうとします。そうではなくて、まったく、口をひらかずにいるのは、「鳴けない」のではなく、「鳴かない」んであって、鳴こうとすれば、鳴けるはずなのです。

そう、ご説明しても、なお、「じゃあ、どうして鳴かないんでしょう。一度も、声を聞いたことがないんです。鳴けないんでしょうか。」「…ですから、鳴けないんじゃなくて、鳴かないんですよ。別に、鳴きたくないんじゃないでしょうか。」「どうして、鳴きたくないんでしょう。」…それは、解りません。おしゃべりなこもいれば、無口なこもいるんだと思います。

確かに、甘えて鳴いてくれたりするのも、私達にとっては、楽しみなことです。ですが、無駄なほどに鳴きまくるワンちゃんでは、逆に、鳴かれることが、苦痛、近所迷惑、トラブルのもとになったりして、かなり、困られているケースもあります。たいていはヤンチャで、興奮しやすい性格がゆえですので、「鳴かない」ようにトレーニングするのは、至難の業です。「鳴かない」こは、そんな、困り者のワンちゃんより、ずっと、お世話しやすい、いいこなんですが。

猫ちゃんでも、同じ、質問をお受けすることはありますが、たいていは、「鳴けない」のではなく、「鳴かない」のだというご説明に、納得され、安心されます。ワンちゃんの場合ほど、「鳴いてほしい」という期待はお持ちでない印象です。犬派、猫派などと言いますが、期待する付き合い方が、多少違うのかなあ…と興味深く感じられます。

我が家には、「鳴かない」こも「鳴き過ぎる」こもいます。帰宅すると、走り寄ってきて、出迎えの「ニャーーー!」。ソファーに座っていると、隣りで何やら「ニャーニャーニャーニャーニャー」。思わず、「何やねん!」と言いたくなりますが、解ってほしい何かを訴えてるんでしょうねェ。

対照的な単独行動主義者は、誰かが帰宅しても、お気にいりのベッドの上にドンッと横たわったまま、チロッとだけ、こちらをチラ見。ごはんが欲しくても、空っぽの器の前に座って、私をジロッと見上げるだけ。そう、無口でいられると、「何とか言えば?」って言いたくなります。私が眠っているときだって、かたくなに、鳴いて起こそうとはしません。両手(前足?)で私の頭をわしづかみにして、頭皮にキバでガリッ!「え~~~~!!」何の悪夢なのかと、目覚めたら、目の前にぶっちょづらの猫がどアップで接近中。どこで、そんな技を覚えたんでしょう。

この我が家の「鳴かない」こ。あまり、可愛げはないかもしれませんが、そんな、無愛想さも、にゃんこならでは。結構、楽しませてもらってます。

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2009年5月12日 (火)

季節外れの尿閉

尿閉(にょうへい)とは、字の通り、おしっこが出なくなることです。尿は、体内に貯まった、老廃物、毒性のあるものを排泄する手段であったり、ミネラルやpHなどのバランス調節をするための手段でもあるので、尿が出ないままでいると、やがて、命にかかわる事態になってしまうという、危険な状態です。

猫ちゃんの尿閉の原因で、最も多いのは、尿結石の細かい砂状のものが、ペニスの先に積もって詰まるケースです。膀胱炎になりやすい寒い季節には、この手の緊急症例が非常に多いのです。

ワンちゃんの場合も、やはり♂ですが、砂状のものではなく、小石くらいの小さな結石が詰まることが多いです。詰まる部位としては、ペニス中央にある陰茎骨という骨の手前が最も多く、尿道がUターンするように膀胱へ向かう、お尻あたりが、次いで多い部位です。

♀は、尿道が太くて短いので、尿閉になることは珍しく、ごく小さな結石なら、尿と一緒に排泄されたりもします。驚くことに、小型種のワンちゃんで、1cmくらいの結石が出てくることもあります。ですが、ものすごくアンラッキーなことに、1cmくらいの結石が、膀胱の出口にキュッと栓をするかのように詰まってしまい、尿閉をおこしてしまうことだってあるのです。

結石による尿閉の場合は、まず、結石を膀胱内へ押し戻すことで、尿が再び出るようにする試みをします。これが、うまくいけば、まずは、ひと安心。次いで、体調を取り戻すための治療と、結石対策を考えていくことになります。ここで、結石の詰まりがひどく、どうにも詰まりがとれないとなると一大事です。緊急手術をして、何らかの排尿ルートを確保しなければならないこともあります。

稀なことではありますが、「腫瘍」ということも、考えておかなければなりません。膀胱の出口や尿道の出口をふさぐように成長した腫瘍による尿閉です。これは、本当にシビアです。その発生部位がゆえに、手術不可能なこともあります。しかも、膀胱に発生する腫瘍は、悪性のものが多いのです。そして、これも、また、稀ではありますが、膀胱や尿道でなく、その周辺に発生した腫瘍の圧迫で、尿閉をきたす場合もあります。

先日、季節外れに、「尿がでない。」という♀猫ちゃんが来院されました。♀猫ちゃんの場合、本当に「尿が出てない。」ことは、めったにありません。膀胱炎の残尿感のせいで、尿が溜まらないうちからトイレでいきむものだから、「尿が出ない。」と、勘違いされることがほとんどです。どうせ、そうだろう…と思いながら触診したら、膀胱がパンパンに。(…あら!?…ホントに、尿が出てない。)

内心、♀の尿閉は、ちょっぴりイヤです。腫瘍がらみだと、対処は容易ではありませんし、悲しい結末になるかもしれません。結石が詰まった場合でも、♂と異なり、尿道の出口が、陰部の奥にあるので、操作しづらいことがあります。

検査の結果、膀胱結石が、膀胱に栓をしていることが判明。(腫瘍じゃなくて良かった…。)そして、とてもお利口さんだったので、詰まってた結石を、管を使って膀胱内へ押し戻すことに成功。(良かったー!)あとは、体調回復を図りつつ、まずは食餌療法で結石を溶かす試みを…という予定でしたが。結局、数日の間に、何度も繰り返し尿閉をおこしたので、手術で摘出することになりました。

直径1cmほどの結石でしたので、石が作られ始めたのは、ずっと前のはず。その証拠に、膀胱は、かなり腫れて分厚くなっており、長く膀胱炎をわずらってたと思われます。おそらく、もう少し結石が小さいうちは、栓をしてしまうほどのことにはならなかったのでしょうが、結石がちょうど詰まるサイズに成長したことと、膀胱炎がひどくなって腫れた分、出口が狭くなって、詰まりやすくなったのではないでしょうか。

とにもかくにも、まったく間の悪いことになってしまったということです。案外、さらに大きな結石になってたら、大きすぎて、詰まることはなかったかもしれません。ですが、そんなになってしまうと、膀胱にも、腎臓にも、かなりの悪影響を及ぼしますので、取り返しのつかない腎障害をきたしてしまうことでしょう。今回、発見されたのは、ひょっとしたら、不幸中の幸いということだったのかもしれません。

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