季節外れの尿閉
尿閉(にょうへい)とは、字の通り、おしっこが出なくなることです。尿は、体内に貯まった、老廃物、毒性のあるものを排泄する手段であったり、ミネラルやpHなどのバランス調節をするための手段でもあるので、尿が出ないままでいると、やがて、命にかかわる事態になってしまうという、危険な状態です。
猫ちゃんの尿閉の原因で、最も多いのは、尿結石の細かい砂状のものが、ペニスの先に積もって詰まるケースです。膀胱炎になりやすい寒い季節には、この手の緊急症例が非常に多いのです。
ワンちゃんの場合も、やはり♂ですが、砂状のものではなく、小石くらいの小さな結石が詰まることが多いです。詰まる部位としては、ペニス中央にある陰茎骨という骨の手前が最も多く、尿道がUターンするように膀胱へ向かう、お尻あたりが、次いで多い部位です。
♀は、尿道が太くて短いので、尿閉になることは珍しく、ごく小さな結石なら、尿と一緒に排泄されたりもします。驚くことに、小型種のワンちゃんで、1cmくらいの結石が出てくることもあります。ですが、ものすごくアンラッキーなことに、1cmくらいの結石が、膀胱の出口にキュッと栓をするかのように詰まってしまい、尿閉をおこしてしまうことだってあるのです。
結石による尿閉の場合は、まず、結石を膀胱内へ押し戻すことで、尿が再び出るようにする試みをします。これが、うまくいけば、まずは、ひと安心。次いで、体調を取り戻すための治療と、結石対策を考えていくことになります。ここで、結石の詰まりがひどく、どうにも詰まりがとれないとなると一大事です。緊急手術をして、何らかの排尿ルートを確保しなければならないこともあります。
稀なことではありますが、「腫瘍」ということも、考えておかなければなりません。膀胱の出口や尿道の出口をふさぐように成長した腫瘍による尿閉です。これは、本当にシビアです。その発生部位がゆえに、手術不可能なこともあります。しかも、膀胱に発生する腫瘍は、悪性のものが多いのです。そして、これも、また、稀ではありますが、膀胱や尿道でなく、その周辺に発生した腫瘍の圧迫で、尿閉をきたす場合もあります。
先日、季節外れに、「尿がでない。」という♀猫ちゃんが来院されました。♀猫ちゃんの場合、本当に「尿が出てない。」ことは、めったにありません。膀胱炎の残尿感のせいで、尿が溜まらないうちからトイレでいきむものだから、「尿が出ない。」と、勘違いされることがほとんどです。どうせ、そうだろう…と思いながら触診したら、膀胱がパンパンに。(…あら!?…ホントに、尿が出てない。)
内心、♀の尿閉は、ちょっぴりイヤです。腫瘍がらみだと、対処は容易ではありませんし、悲しい結末になるかもしれません。結石が詰まった場合でも、♂と異なり、尿道の出口が、陰部の奥にあるので、操作しづらいことがあります。
検査の結果、膀胱結石が、膀胱に栓をしていることが判明。(腫瘍じゃなくて良かった…。)そして、とてもお利口さんだったので、詰まってた結石を、管を使って膀胱内へ押し戻すことに成功。(良かったー!)あとは、体調回復を図りつつ、まずは食餌療法で結石を溶かす試みを…という予定でしたが。結局、数日の間に、何度も繰り返し尿閉をおこしたので、手術で摘出することになりました。
直径1cmほどの結石でしたので、石が作られ始めたのは、ずっと前のはず。その証拠に、膀胱は、かなり腫れて分厚くなっており、長く膀胱炎をわずらってたと思われます。おそらく、もう少し結石が小さいうちは、栓をしてしまうほどのことにはならなかったのでしょうが、結石がちょうど詰まるサイズに成長したことと、膀胱炎がひどくなって腫れた分、出口が狭くなって、詰まりやすくなったのではないでしょうか。
とにもかくにも、まったく間の悪いことになってしまったということです。案外、さらに大きな結石になってたら、大きすぎて、詰まることはなかったかもしれません。ですが、そんなになってしまうと、膀胱にも、腎臓にも、かなりの悪影響を及ぼしますので、取り返しのつかない腎障害をきたしてしまうことでしょう。今回、発見されたのは、ひょっとしたら、不幸中の幸いということだったのかもしれません。
| 固定リンク
« 豚インフルエンザ | トップページ | 鳴かないこ »
「ペット」カテゴリの記事
- 長老猫ゆきおちゃんとのお別れ(2009.11.06)
- 臨時休診のお知らせ(2009.10.29)
- チューブ・フィーディング(2009.10.08)
- 「抱っこ猫」ミューン、お母さんのいる天国へ(2009.10.01)
- 猫の甲状腺機能亢進症(2009.09.24)

コメント