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2009年8月

2009年8月27日 (木)

血液透析

血液透析とは、腎臓機能が悪いために、体内に溜まり過ぎた老廃物を、人工腎臓に取り除いてもらう方法です。ヒトでは一般的ですので、近しい方で、定期的に透析を受けている方がいらっしゃったり、透析専門のクリニックも多く見かけますので、ご存じの方が多いかと思います。

血管に入れた管から、人工腎臓へと血液を送り込み、老廃物を取り除いたり、ミネラルバランスやpHを修正してもらった血液を再び、別の血管へと戻す方法で、腎臓の代わりの仕事をしてもらいます。

悪くなってしまった腎臓機能は、治療して治るというものではありません。まだ、余力があるうちは、点滴などの内科治療をすることで、腎臓の働きを後押ししたり、病状を緩和することができますが、それ以上のレベルになてしまうと、透析という手段に頼るしかありません。そして、治るわけではないので、半永久的に透析を受けなければならないということです。

動物でも、以前から、腹膜透析という手段は行われていました。手術で、腹腔内にシャワーのような器具をはめこみ、腹腔内へ透析液を流し込んで、しばらく置いてから回収するといった作業を一日に4~5回、数日間、繰り返します。体内の老廃物は、透析液のほうへ引き寄せられ、代わりに不足しているミネラルなどが、体内へ移動する仕組みです。

画期的な効果が期待できますが、その一方、全身麻酔して、開腹手術をするというリスクは、大きなものです。腹腔内にはめこんだ器具も、目詰まりを起こしますので、永久に使えるわけでもありません。腹膜炎を起こすリスクもあります。

ですから、私の印象としては、比較的若い動物が、たとえば薬物などで、急に腎臓障害を起こしてしまったケースなどでは、リスクに耐える余力が大きいことや、一時的に老廃物の排泄を手助けすれば、その後、機能回復できる可能性が高いことなどを考えると、期待度は大きいかなと感じますが、老齢の慢性腎不全のケースで、長期的なコントロールのために用いるには、不向きな方法のように感じています。

近年になって、動物でも血液透析の試みがされてきました。ですが、動物の場合は、全身麻酔が必要なこともあり、期待できる治療効果と引き換えのリスクも大きいものがあります。獣医療域では、まだまだ、経験の浅い分野ではありますが、少しづつ情報を耳にするようになってきました。

先日の学会でも、慢性腎不全の猫で、一般的な治療で改善がみられなかったケースに、血液透析を試みた3例についての発表がありました。一回の透析時間が、約1時間。6~7時間間隔で合計3回を1クールとするプランで行ったという報告でした。腎不全の猫にとっては、かなりリスクの大きなチャレンジだと思います。この3例では、平均2~3ヶ月毎の透析が必要で、1~2年間はうまくコントロールすることができたようです。

たった、1~2年と思われるでしょうか。ですが、透析をしなければ、おそらく亡くなっていたであろう猫ちゃんの1~2年は、貴重です。今後、研究がすすんでくれば、もっと長期的なコントロールができるようになるかもしれません。今、最も期待されている分野のひとつだと思います。

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2009年8月15日 (土)

特別講演・市民公開講座へのご案内

8月23日(日)に、第84回麻布獣医学会という、獣医さんの学会が開催されます。午前中は、専門的な学会ですが、午後は、一般の方々にも、ご参加いただける、特別講演と市民公開講座が予定されています。

特別講演では、麻布大学獣医学部伴侶動物学研究室の菊水健史先生が、「動物から学ぶ親子の大切さ」というテーマで、講演されます。以前、「キレやすい子供」という言葉を、マスコミでもよく取り上げていたように記憶していますが、まさに、そんな、社会生活にうまくなじめない子供になってしまう理由についてのお話です。特に、幼少期の母子関係のありかたが、大きな影響を与えているそうですが、その科学的データや根拠に基づいたメカニズムを、やさしく、解り易くお話くださいます。

生き物は、「ストレス」に遭遇すると、ホルモンや神経が自然に働いて、それを回避しようとするものなのですが、その反応がいささか過剰だったり、コントロールがうまくできないと、社会生活になじめくなったり、うつ病や高血圧、心筋梗塞といった病気が起こりやすくなることが解っているそうですが、そういった、ホルモンや神経の発達と、幼少期の母子関係のありかたについて研究されていらっしゃいます。

マウスやラットを1週間早く離乳させると、身体の成長には問題ないのですが、不安行動や攻撃性が増したり、子育てを拒否するなど、「キレやすいネズミさん」に育ってしまうそうです。脳を調べると、いくつもの変化が起きていて、それは、生涯、問題を起こし続けるものです。幼少期の社会環境が神経系の発達におよぼす影響は、予想以上に大きいことが解明されました。私達も、育児の中で考えさせられる、重大な問題です。

そして、この研究をもとに、盲導犬育成に役立てるための、犬の気質評価システムなるものの開発を始められたそうです。気質のいい盲導犬育成に役立てば、素晴らしい社会貢献です。

難しそうに思われるかもしれませんが、そんな方こそ、今までにない発想に触れて、「目からウロコ」間違いなしです。

市民公開講座では、海遊館の地本和史先生が「飼育係からみた水族館のしごと」というテーマでお話くださいます。日頃、私達が、水槽の中を覗き込んで、楽しませていただいている水族館ですが、その、水槽の向こう側で、起こっている様々なことのお話です。水族館は、単なる展示施設というだけでなく、調査研究機関としてや、種の保存などの自然保護施設としての役割も担っています。そんな水族館で、野生の生き物を飼育するということの「命の重さ」への責任を大きく感じられながら、社会に役立ち、人々に喜ばれ、飼育している生物たちが幸せに暮らせる展示施設となるために奮闘されている方々の、「水族館のしごと」のお話です。

なかなか、お聞きできる機会のないお話なので、実は、私自身も、かなり楽しみにしています。

特別講演・市民公開講座ともに、入場無料となっておりますので、ぜひ、お気軽に、ご来場ください。

8月23日(日)

KKRホテル大阪

  06-6941-1122

  大阪市中央区馬場町2-24

  最寄駅 : JR/地下鉄 森ノ宮駅 

         地下鉄 谷町四丁目駅

13:40~15:10 特別講演 

  「動物から学ぶ親子の大切さ」 菊水健史 先生

15:20~16:50 市民公開講座 

  「飼育係からみた水族館のしごと」地本和史先生

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2009年8月10日 (月)

のみ・ノミ・蚤!

暑くなると、増えてくるノミ。子供の頃、飼っていた犬についたノミを1匹ずつ取ってやったことがあったように思います。今思えば、全く、無駄なことです。ですが、当時は、これといった予防策も無かったのかもしれません。

私が、獣医師になったばかりの頃からしても、ノミ予防薬ほど、変化、進歩したものはないのではないでしょうか。当時は、「ノミ取り首輪」オンリーでした。殺虫剤をふくむ樹脂性の首輪で、薬剤が少しづつ被毛をつたって、体表に拡散する仕組みのものです。この薬剤とノミが接触するとノミがしんでしまうものです。効果はありましたが、大きなワンちゃんになると、首から離れたところまで薬剤が分布しづらい感がありました。そして、重大な欠点は、誤って食べてしまうと、重篤な中毒を起こすということです。首が細いこで、余りがでた分を切り取らずにダラーンとさせているのをかじってしまったり、可哀想だからとゆるめにまいていて、猿ぐつわのように、口にはまってしまうといった事件がよくありました。

その後、今、主流になっている、首の脊側に滴下するタイプのものが発売されました。皮膚から、吸収されて血液中に入り込む仕組みなので、大きなワンちゃんでも、間違いなく、十分な効果がありました。ですが、この製剤には、欠点が2点。1点は、殺虫剤なので、誤って舐めてしまうと、中毒を起こしてしまうこと。もう1点は、薬剤は、血液中に吸収されているので、ノミが吸血して初めて、その殺虫効果が発揮されるので、一度は吸血されてしまうこと。

ノミにアレルギーを持っている動物では、その一度の吸血だって、アレルギーを引き起こしてしまいます。そこで、推奨され始めたのが、「ノミ取りパウダー」や「ノミ取りムース」を全身くまなく散布して、ノミが吸血する前に退治しましょうという考え。蚊取り線香の主成分である除虫菊から作られた、多少、舐めても問題ない製剤が登場しました。

この頃、同時に推奨され始めたことが、ノミの繁殖をストップさせるということです。カーペットや畳などは、ノミにとってはとても心地よい繁殖場ですし、冬の間も、温かい室内では、一年中繁殖しつづけることになります。1匹のノミから産まれる卵の数を考えると、確かに、ノミの成虫だけを退治したところで、とうてい、ノミの繁殖には追い付きません。そこで、開発されたのが、ノミの卵や幼虫の発育を遮断する薬です。昆虫の身体をつくっている殻成分の発育を遮断する薬なので、殻を持たない動物には、全く無害ということも安心です。これが、開発された当初は、内服薬しかありませんでしたので、ノミ駆除薬と合わせて内服しなければなりませんでした。

そして、今日のノミ予防薬は、首の脊側に滴下するタイプのものが主流となっていますが、舐めても毒性のないものに変わり、皮膚から吸収するもの以外にも、皮膚表面の皮脂をつたって拡散し、全身の皮脂腺に蓄えられて叙徐に分泌されるものや、皮膚表面の細かいシワをつたって拡散し、皮膚表面に固着して、授乳中の仔猫に移行するものもあります。ノミ以外にマダニ・シラミ駆除に有効なもの、回虫・耳ヒゼンダニ駆除・フィラリア予防もできるものもあります。いずれにも、卵・幼虫の発育を遮断する薬が配合されていて、別に、内服させる必要もなくなりました。

お外に出る猫ちゃんは、絶対ですが、案外、お庭や1階のベランダからピョンッと入ってくるようなので、一戸建てや1階にお住まいの猫ちゃんも、予防しておいたほうが良いかもしれません。一度、室内で繁殖してしまうと、恐ろしいことになります。恥ずかしながら、私は、その恐ろしいことの経験者です。学生時代の夏休み、1週間ほど留守にした間、閉め切っていた室内で、あっという間にノミが繁殖してしまいました。一歩、踏み入れた足に、数匹のノミがピョンッと飛びついてきます。布団にも、ノミが繁殖してしまったのか、寝ていても、体中が痒い気がして、発狂寸前でした。そんな、経験もあって、「室内で、ノミが繁殖すると大変なんですよ!!!」と、つい、力強く語ってしまいます。

きっと、一般の方からすれば、獣医科大学の学生なら、ノミ予防のことくらい知っているはずだと思われるに違いありませんが、当時、大学で勉強していたのは、遺伝子やら、生科学やら微生物やら…日常、役立つこととはかけ離れたことばかり。ノミ駆除のことを動物病院で相談するという発想もなく、ホームセンターでみかける「ノミ取り首輪」なるものを付けてみたりして、ノミ退治に奮闘する「ど素人さん」でした。動物病院に勤務するようになり、市販のものと病院処方のものでは、明らかな効果の違いがあることを実感して、「ど素人さん」だった自分にかなりショックを受けたものです。

そういえば、学生時代、ノミが繁殖して発狂していたのは私だけではありませんでした。手足にいっぱいブツブツが出て、熱まで出て、病院へ行った友人もいました。今は、皆、第一線で活躍するベテラン獣医さんになっていますが、あの頃、身をもって学習した、「室内でノミが繁殖すると、いかに大変か」ということを、私同様、力強く語ってるにちがいありません。

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2009年8月 1日 (土)

避妊手術・去勢手術

メスが妊娠しないようにするのを、避妊手術。オスの繁殖能力を無くすのを、去勢手術といいます。時折、両者を混同されて、メスなのに去勢手術、もしくはオスなのに避妊手術とおっしゃられることがあります。ですので、問い合わせを受けると、まず、メスかオスかの再確認をさせていただくようにしています。来院されたら、本当にメスないしは、オスなのかを確認します。メスとおっしゃられていても、オスだったり、また、その逆のことも、マレにですが、あるんです。

ある独身男性が溺愛していた、ペルシャ猫の「ゆかり」ちゃん。避妊手術に来院されたら、オスでした。はじめて飼った猫ちゃんで、長毛にかくされたタマタマがあることもご存じなかったようです。女の子だと思って添い寝してた「ゆかり」ちゃんですが、実は、男同士だったんですね。今更、名前を変えるのも変だし、去勢手術を受けて、ニューハーフの「ゆかり」ちゃんということになりました。

さすがに、ワンちゃんは、下腹部にオチンチンが付いてるので、間違われる方は少ないのですが、以前、柴犬さんで、メスなのに絶対オスだとおっしゃられるので、困った事があります。「ブリーダーさんから、オスを購入したんだ。」と、「血統書だってオスと記載されてる。」と、そう、云い張られましても、メスなものはメスです。陰部の部分がおちんちんだと主張されるので、本物のオス犬さんをお見せして、「こんな風に、オチンチンとタマタマが付いてて…」と、ご説明したら、「ほおーーーー!!!…。」ご納得いただけたようですが、次に来院された時に、確かに「オス」と記載された血統書をお持ちになられて、「オスを買ったのに!」と憤慨さめぬご様子でした。

半陰陽。聞きなれない言葉かもしれませんが、メスなのかオスなのか判別しづらい状態をいいます。めったに、遭遇しませんが、私は、猫ちゃんのそれと思われるケースを診たことがあります。「さかり」やマーキング行動をし始めたので、去勢手術をご希望された自称オス猫ちゃん。確かに、タマタマは左右に二つありますが、何やら変です。ペニスがありません。肛門の真下に、まさにメス猫の陰部同様、スリット状の排尿口があり、その左右にタマタマがある感じなのです。では、その陰部らしき奥は、どうなっているんだか。ひょっとしたら、子宮や卵巣も持っていて、オスとしてもメスとしても「さかり」があるのかもしれませんが、とりあえず、タマタマを摘出する去勢手術だけ行ってみることになりました。その後、「さかり」症状は、終息しましたので、開腹してみる機会もなく、謎のままです。

友人獣医師が経験した、まれなケースですが、通常通り避妊手術を終えたゴールデン・レトリバーのワンちゃん。しばらくして、陰部から出血があり、来院。避妊手術済みですから、膀胱か膣からの出血だろうと考え、治療。しばらくすれば、治まりますが、どうも、半年周期に出血します。まるで、排卵時の出血のようですが、卵巣も子宮も摘出しているのに、起こりえないことです。いろんな可能性を考え、検査をすすめても、これといった異常が見つからないため、開腹手術にふみきることになりました。結果、なんと、もうひと組の卵巣と子宮が発見されました。よくよく、念いりに探らないと解らない場所に、よくよく見ないとそれと解らないほど小さな卵巣・子宮がひそんでいたそうです。これを摘出したら出血しなくなったそうなので、三つ目は無かったようですね。

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