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2009年10月

2009年10月29日 (木)

臨時休診のお知らせ

10月30日(土)

研究会出席のため、臨時休診とさせていただきます。

ご迷惑をおかけいたしますが、あらかじめ、ご了承のほど、お願い申しあげます。

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2009年10月 8日 (木)

チューブ・フィーディング

その名の通り、チューブから食餌を与える方法です。鼻の穴から胃の手前までいれるチューブの他に、頚部から、直接、食道にいれるチューブや、腹部から、直接胃内にいれるチューブがあります。鼻からいれるチューブは、ゼリー状の局所麻酔薬だけで、挿入しますが、食道や胃に直接いれるチューブは、全身麻酔が必要です。

食欲が落ちてしまった動物の体調維持、回復を支えるのに、口から摂る栄養に勝るものはありません。よく、「食欲が無いので、栄養の点滴をしてください。」とか、「点滴してるから、食べなくても大丈夫ですよね。」と、云われることがありますが、一般的に行われている、皮下点滴や静脈点滴は、水分補給に過ぎず、栄養にはなりません。たとえ、ブドウ糖の含まれた点滴剤であっても、血糖値を維持する程度の量で、すぐ、分解されてしまいますから、栄養にはならないのです。

ですが、身体の水分やミネラルのバランスを保つことが、まず、第一優先ですから、食欲の無い動物に、点滴治療はかかせません。まだ、十分に発育していない幼獣でもなければ、数日間、食べなくても、水分補給さえ怠らなければ、蓄えてある栄養分を分解して、持ちこたえることができます。ですが、長期間の食欲不振となると、皮下脂肪を分解しすぎて脂肪肝を起こしてしまったり、貧血や低蛋白から、全身の様々な機能が悪くなり、どんどんと、悪循環を起こしてしまいます。

もちろん、吐き気がひどい、下痢がひどいなどの問題がある場合は、口から栄養を摂ることはあきらめざるを得ず、本当の「栄養点滴」に頼るしかありません。栄養点滴をするには、頚部の静脈から心臓近くの太い血管まで、管を入れる必要がありますので、たいていは、全身麻酔が必要ですし、雑菌が入り込みやすい点滴なのですが、動物では、衛生管理も難しいこともあり、あまり、頻繁にはされていないかと思います。

そこで、そういった消化器症状のない容態なら、口から摂る栄養に勝るものはないという訳です。必ずしも、チューブからという訳でなく、軟らかいフードを口に入れて食べさせたり、流動食をスポイドで飲ませたりする方法でもかまいません。それで、スムーズに給餌できるなら、わずらわしいチューブを付けられ、いたずら防止にエリザベス・カラーを装着するといった重装備にならなくて済みます。

ですが、かなり嫌がるようでは、かえって、ストレスになりますし、量的にも、さほど補給できるとは思えません。チューブからなら、まったく嫌がらず、十分な量の補給ができますし、内服薬も簡単に投薬できます。チューブが入っていても、普通に食べることもできますし、実感として、口からの栄養補給ができるのと、できないのとでは、明らかに体調維持具合が違います。

ですが、動物にとって、チューブやエリザベス・カラーをわずらわしく感じるのも、ストレスでしょう。何より、オーナーさん側が、見るに忍びないお気持ちになられるようで、チューブの装着を躊躇されるケースが多いのが実際です。チューブから流動食を注入するだけのことでも、慣れない一般の方にとっては大変なことだとも思います。

今でこそ、チューブ・フィーディング用のフードも進化して、溶けやすいもの、下痢しづらいもの、嗜好性もよいものなど、便利になりましたが、以前は、あまり良いものがなく、缶フードに水を加えたものをミキサーにかけ、カスが詰らないように、さらに茶こしで裏ごししたものを使ったりしましたので、その、工程を理解することも、慣れない方にとっては大変なことだったろうと思います。

チューブ・フィーディングといえば思い出すのが、15年ほど前、猫エイズ、猫白血病共に感染していて、リンパ腫になってしまったトラ猫のトラちゃんです。抗癌治療に耐える体力を維持するために、チューブ・フィーディングすることになりました。そこで、オーナーさんである初老のご夫婦に、その工程を伝授しなければなりません。奥様には、毎日、毎日、面会に来ていただき、少しずつ、少しずつ、説明を重ね、注入する練習をしていただきましたが、いざ、ご自宅でしてみると、それをひとりでするのは、簡単にはいかず、大変だったようです。

やむを得ず、トラちゃんは、再び、入院生活に戻り、奥様は毎日、練習通い。週末ならご主人様がご在宅で、手伝って貰えるからということで、週末は、お試し退院。それは、それは、嬉しそうなお二人。チューブ・フィーディング用具一式とトラちゃんをかかえ、「では、お借りしてまいります。」(オタクの猫ちゃんなんですけど)

そんなこんなで、奥様には大奮闘していただき、「随分、慣れまして、なんとかやっております。」と笑顔でご報告いただけるまでに。トラちゃんも、奥様の奮闘に応え、発病から半年間も頑張りました。たった、半年?と思われるかもしれませんが、猫エイズも猫白血病にも感染しているリンパ腫では、2ヶ月間頑張れれば良いほうなのです。たった半年でも、ご夫婦にとっては、トラちゃんの病気を受けとめ、共に闘い、心の準備をしながら過ごせた、貴重な半年間だったことと思います。

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2009年10月 1日 (木)

「抱っこ猫」ミューン、お母さんのいる天国へ

先日、以前、勤務していた病院の先生、スタッフから、「ミューンが亡くなりました」というメールが届きました。「ああ、そう言えば…もう、かなりのご高齢だった、ミューン…。」いつもいるはずだったのにという寂しさと、この10年間の色々なことが思い出され、切ない思いがこみあげます。

ミューンは、享年17歳。ミューンをこよなく可愛がっていらっしゃったお母さんが、入院されるということで、ホテル暮らしすることになったのが、7歳のころでした。いつも、赤ちゃんみたいに、お母さんに抱っこされ、肩越しにキョロキョロと様子をうかがっている、おとなしいニャンでした。偏食もなく、鳴くことも、咬んだり、ひっかいたりも絶対にしない優等生でした。

週末は、お母さんの一時帰宅にお供して、帰宅。「ミューンはお風呂が好きだから、お風呂に入れてあげる。」と、ニコニコ顔のお母さんに、抱っこされて、ゴロゴロとのどを鳴らしながら帰っていくミューン。そんな、ホテル暮らしがしばらく続きましたが、お母さんのご容態が、少し、思わしくないようになってからは、一緒に帰っても、世話ができないからと、ご面会に来られるだけになり、車から病院内まで歩いて来られるのも大変になられてからは、お母さんが乗っているお車まで、ミューンを抱いて連れて行ってあげて、しばし、お母さんのおヒザでご面会ということになりました。そして、それから、間もなく、お母さんは、お亡くなりになられました。

これからは、ご主人様とミューンの二人暮らしになるんだろうとばかり、思っていたのですが、「ミューンは、私のことが好きではないので…。」と、もうしばらくホテルをお願いしたいとおっしゃるご主人。確かに、男性を苦手とする猫ちゃんは多くて、一緒にお住まいのご主人でもダメという猫ちゃんもいますので、仕方のないことです。

物静かなご主人で、あまり、多くはお話しされないのですが、里親さんになっていただける方を探されたのかもしれません。ですが、7歳になる猫ちゃんですので、なかなか、難しかったのでしょうか。「どなたか、可愛がってくださる方がいたら、ご紹介ください。」そうおっしゃられ、ミューンは、そのまま、ホテル暮らしを続けることに。そして、そのまま、数年。毎月、きっちりと、お支払いにみえるご主人。この一ヶ月のミューンの様子をご報告して、「ご面会されますか?」とお聞きしても、「結構です…私のことは、あまり好きでないので…」と、遠慮されるので、こちらで、勝手にミューンを抱いて出て、お顔を見ていただくと、にっこり微笑まれ、ポンポンと、かるくミューンのおでこを撫でて、「では、よろしくお願いしまします。」と帰っていかれます。

毎日、ケージ暮らしのミューンが気の毒で、時間のある時は、入院室内を自由に歩かせてあげたり、紙くずを丸めたものを投げて遊ばせたり、ブラッシングしてあげたり、大好きな「抱っこ」をしてあげたり。それでも、このまま、ずっとケージ暮らしは可愛そう…と、スタッフの1人が、里親を申し出ました。きっと、ご主人様も喜んでくださることと、皆が思っていたのですが、意外なことに、複雑な表情をされ、「少し考えさせてください。」と。そして、「このまま、ここで、預かっていていただきたい。」と。

奥様とのつながりがなくなってしまうようで、お寂しかったんだろうか。奥様に頼まれていたミューンを手放すようで、お辛かったんだろうか。その真意は、誰も、今もわかりませんが、ミューンはずっとホテル暮らしをすることになりました。それから、10年。ご主人様は、きっちり、きっちり、お支払いにみえられ、スタッフに抱かれたミューンに、にっこり微笑まれて帰っていかれます。

ミューンが亡くなったという知らせに、すでに退職しているスタッフも、かけつけたようです。皆が、ミューンに癒してもらっていたのでしょう。ひょっとしたら、ミューンのほうでも、にぎやかな病院暮らしを、案外楽しんでくれていたのかもしれません。ご主人様も、奥様のときと同じように、スタッフに抱かれてご機嫌なミューンをみて、安心してくださっていたのかもしれません。長い長いホテル暮らしでしたが、きっと、今頃、天国で待ってらっしゃったお母さんに抱っこされて、ゴロゴロとのどを鳴らしているのではないでしょうか。そう、気持ちを慰めてみても、寂しいばかりですが、何より、ご主人様の心情をお察しすると、とても複雑な心境です。

ミューンのご冥福と、ご主人様が健やかにお暮らしいただけますよう、心よりお祈り申し上げます。

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