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2010年3月

2010年3月30日 (火)

痒い皮膚病

先日、ある勉強会で、皮膚病に詳しい先生に、「痒い皮膚病」をテーマにお話いただきました。「痒い」って、案外ツライものです。自分のことなら、まだしも、お子さんや、ワンちゃん、猫ちゃんが、血だらけになるまで掻いてしまうほど痒がっているのをみているのは、もっと、ツライことです。

この「痒い皮膚病」は、簡単なようで、難しい獣医さん泣かせなものです。「痒い」原因を見つけて、それを治せばいいだけなはずなんですが。掻き壊しがひどいと、二次的な細菌感染を起こし、更に、痒くなるという悪循環で、始まりが何だったのか解らなくなっているものや、結局、ダニの感染だったものでも、どんなに調べても、ダニが見つからないことだってあります。なので、基本に従い、ひとつ、ひとつクリアーにしていかなくてはなりません。

細菌はいないかどうか調べます。いた場合も、二次感染かもしれませんので、とりあえず、抗生物質をしっかり続けて退治します。なかなか、いなくならない場合は、細菌の種類や、どんな薬が効く細菌なのかを調べたりりもします。

寄生虫がいないかどうか調べます。皮膚が痒くなる寄生虫には、様々なものがいます。ノミ、マダニ、ヒゼンダニ(疥癬)、ツメダニ、シラミ、毛包虫と、メジャーなのはこんなところです。皮膚に寄生しているには違いありませんが、厳密には住処が異なります。ノミ、マダニは皮膚の上ですし、肉眼で見える大きな寄生虫です。ツメダニはフケの中、皮膚の表面にいます。ヒゼンダニは、皮膚にトンネルを掘るようにして、深部にもぐっています。毛包虫は最も深く毛根に寄生しています。そして、この3種類は、小さくて、肉眼では見えません。

シラミだけは、毛に付いていますので、毛の先に小さなプツプツがくっついているのを、顕微鏡で確認するだけで容易に発見できます。ノミは、すばしっこいので、その姿を見ることはあまり無く、ノミの糞が付いていないかで確認します。ノミが走ってるのが見えるほどなら、超大発生なのです。マダニは皮膚に食いついて寄生しています。はじめは、数mmの小さなダニですが、吸血すると小豆大にまで膨らみます。ツメダニ、ヒゼンダニ、毛包虫は、皮膚を擦って、見つけ出します。

ここで、それぞれの住処故の、見つけ出すコツを教わりました。ツメダニなら浅く擦っただけでも捕まるかもしれません。ヒゼンダニなら、皮膚の中から擦りださなければならないので、少し血がにじむ程度にまで、遠慮なく擦らないと、見逃してしまうことになります。毛包虫は、毛穴からキューっと絞り出すようにしておいてから擦るとか、毛を引っこ抜いて、その毛根を顕微鏡で調べたりすると見つかりやすいのです。

ちょっと、痛々しいですが、必ず、そして、治りが悪ければ何度となく検査を試みるそうです。その位、本当はいるのに、見つからないケースが多いそうです。案外、同居動物を調べてみると、さほど、痒がっていないこから、寄生虫が発見されて判明することもあるそうです。痒みの程度は、寄生虫への反応程度によりますので、寄生数には比例しないのです。

その他、カビ(真菌)がいないか調べたり、細胞の検査で、特殊な皮膚炎や皮膚腫瘍の疑いがないかを調べたりもします。特殊な皮膚病には、自分で自分の皮膚を攻撃するような、間違った免疫による病気もあります。この類の病気にも、いろんなタイプがあるので、最終確認は、皮膚生検といって直径5mmくらいの皮膚を数ヵ所から切り取り、病理検査を依頼することになります。この検査で、皮膚深部に寄生している寄生虫や、細菌、真菌、が発見されたり、アレルギーならそれらしい炎症パターンがみられるので、痒い理由解明の大きな手掛かりとなることも多いのです。

とまあ、「先生なら、一目見たら解るに違いない。」なんて、ご期待には添えなくて申しわけないことですが、そういうものなのです。まず、細菌退治をやってみましょう=2~3週間、駄目なら見つかりづらいダニ退治をやってみましょう=6週間…等々、難解な痒みを解決するのには、根気良く進めていかなければならないこともあり、あの手この手の作戦と、試行錯誤が必要になることもあるのです。

暖かくなってくると、細菌が増えやすくなったり、寄生虫が増えたりということで、痒い皮膚病が増えてきます。これからの季節、「痒い皮膚病」に要注意です。

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2010年3月16日 (火)

病院実習

先日、出身大学の同窓生で運営する研究会がありました。毎月、講師の先生をお招きして勉強会を開いています。

今回は、今や、大学付属病院の病院長になられた大先生の「腫瘍外科」の講義でした。実際の手術映像のビデオをまじえて、ご講義くださるので、とても解りやすく、勉強になりましたし、何より、そこにいるかのような臨場感が、なんとも、懐かしいものがありました。

ビデオは、完全ノーカット版です。緊急事態が勃発すると、先生が「○○○○しろー!!!」「バカヤロー!!!!」と叫んでいるのも、ノーカット版です。騒然としていて、ワタワタと走り回っている周りのスタッフ、学生さん達が眼に浮かびます。

大学時代の病院実習を思い出します。内科は、ほとんど見学しているだけですが、外科は、学生が1名器具係として手術に入らなければなりません。ここで、学生の間では、ロシアンルーレットもどきのドキドキがあるのです。

当時、外科の指導をされていたトップの先生は、とても厳しくて、手術前の手洗いの実習でも、どんな細かなミスも許さず、どれだけ、繰り返し、手を洗ったかしれません。学生の間では、手洗い好き=アライグマをもじって、「ラスカル○○」というあだ名で呼んだ先生です。この先生の手術担当になって、間違った器具を渡したりしたもんなら、器具を投げつけられて叱られるという噂でした。ですので、できれば、若手の優しい先生の担当になりたいのです。

「誰が入る?」と、「ラスカル○○」が私達、実習生を振り返ります。6名の実習生、全員無言の数秒間。(この沈黙はやばいやろ…)、案外いさぎよい気質の私めが、「私が入ります。」と、思わず、立候補してしまいました。そして、まず、手洗い後に手を拭くタオルが1枚しかないのに、2枚の方法で拭き始めてしまい、「反対の手、どうやって拭くつもりなんだーーー!!!」と大雷。(そんなん。1枚しかないって、知らんヤン。)なんてことは、恐ろしくて言えません。

そして、「ラスカル○○」2度目の「誰が入る?」。またまた、無言の実習生6名。(えー。また、このヒト達、沈黙するの?なんて肝っ玉の小さい奴らだ…)ということで、またも「私が入ります。」と、立候補するはめに。「また、君?」あれだけ、大雷くらったのに、こりない奴だと言わんばかりに、不思議なものを見るかのように私を見て、「他のヒトに入ってもらおう。」。「はい!結構です!」元気にお返事した私でした。

学生の頃の私にとっては、厳しくて、なかなか「合格」をいただけない、難関な先生でしたが、今になって振り返ると、超ご多忙な中、学生の教育にも、貴重な時間をおしみなく費やしてくださり、愛情をもって叱ってくださった、ありがたい先生だったと感謝するばかりです。私の中では、あの頃の印象が強いだけに、今年で退官されると、お聞きした時は、そんな、お歳になられるのかと驚きました。

今回、講師におこし頂いた大先生も、当時は、若手の優しい先生チームでした。なのに、ビデオの中で、「バカヤロー!!!!」なんて、叫んでたのが、少々、ショッキングでした。時は、刻々と流れているということですね。ある、恩師との思い出話の一節、「あの頃は、僕も、まだまだ若かったよ。君だって、目尻にシワは無かったしね。」

そう言われて、ハッとしました。自分も、同じだけ年齢を重ねていることには、気付かないでいたようです。

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2010年3月10日 (水)

歯石

「ルナの歯石どうにかならへんやろか?」(母)

ルナは実家の母の愛犬です。十数年前、和歌山県の龍神温泉のあたりで、母の運転する車の前に飛び出てきて、そのまま、母の愛犬になった、シーズーとテリアが混ざったかんじの小型犬です。その頃、すでに、永久歯に換わっていましたが、全く、歯石が付いていない、つるつるのキレイな歯でした。

膝の上に仰向けになったまま、大人しく歯みがきさせてくれるお利口なワンでしたので、母に、「歯みがきするように。」と、「歯みがきしないと、100%歯周炎、歯槽膿漏になるから。」そう、強く言ってみても、「そんなん、自分の歯磨くのも、めんどくさいのに。犬の歯なんか、磨いてられへんわ。」

当時、母も仕事をしていましたので、時間的な余裕が無かったことは確かですし、昔ながらの、「犬は外で飼う」感覚のヒトでしたので、犬の歯に歯石が付くことなんて知らなかったんでしょう。ましてや、小型犬を飼ったことはないので、小型犬の歯周病がどんなひどいことになるかを知るよしも無かったわけです。仕事を退いてから、ルナと過ごす時間が増え、にわかに、いろんなことが心配になったようです。

先に他界した、中型犬のララの歯にも、歯石がガッツリ付いていましたが、10歳の頃、膀胱結石で手術した際に、歯のクリーニングも済ませたおかげで、歯周炎や歯槽膿漏によるトラブルを経験しなくて済みましたので、ますます、「何もしなくたって大丈夫」と、油断してしまったのかもしれません。

歯石による健康被害は、実は、想像以上のものです。歯と歯茎の隙間に入り込んで、歯周炎や歯槽膿漏を起こすのはもちろんですし、一緒に生活する上では、口臭だって、大問題です。あまり、認識されていないことは、歯石=細菌の塊であって、常に、傷ついた歯肉から、血行にのった細菌が全身に運びこまれているということです。この細菌が、全身の臓器に悪さをし続けるのです。特に、心臓、肝臓、腎臓等、血液環流の多い臓器ほど、被害を受けるのです。

うちの母は、ここまで解っていて心配しているわけではありません。自分自身が、歯では随分と痛い思いをしているので、同じ思いをさせるのが可愛そうだと思っているだけです。ルナは6~7歳のころから、僧帽弁閉鎖不全症による心臓の雑音が出始めました。小型犬に多い病気ですが、少し早めの発症でした。「歯石が災いしてるだろうなあ…。」と、私だけが気の毒に感じているわけです。

この、歯石をどうにかするのは、ヒトと全く同じです。あの、キーン!と鳴る超音波スケーラーで、歯石を落とし、歯肉内に入り込んだ歯石は、器具を使って、カリカリ掻きだします。最後に、ブーン!と鳴る、歯の表面を研磨剤でみがく、ポリッシングという工程でお仕上げです。

私達だって、解ってても、怖いし、嫌な処置ですから、動物の場合は、全身麻酔が必須です。大人しいこなら、大きな塊だけ、バリッと取ることくらいできるかもしれません。それだけでも、スッキリした気になるかもしれませんが、最も、健康被害をかもしだす、歯肉内の歯石を取れないのなら、本当は、おおよそ、意味の無いことなのです。

全身麻酔と聞くと、大半の方が、躊躇されてしまいます。ヒトの場合だと、よほど、特殊なことでなければ、歯の治療に全身麻酔というのは、一般的ではないからでしょう。そして、麻酔中の心配、麻酔することの負担の心配。もちろん、心配は当然ですが、眼に見えない健康被害のほうが、よっぽど重大だということは、眼に見えないだけに、知らぬがなんとやら…になってしまいがちです。

麻酔することの負担よりも、歯周炎が生じる前に、歯石を取るようにしておく方が、ずっと、健康的です。そうすれば、歯槽膿漏へ進行することなく、ずっと、きれいな歯肉を維持できます。必要であれば、毎年でも行うのです。ですが、できれば、それ以前に、出来るだけ、歯石が付かないようにケアーしてあげることが重要です。

最も、効果的なのは、やはり、歯みがきです。歯垢が歯石に変わるのに、24時間かかります。よって、1日に1回の歯みがきで、歯石になるのを防ぐことができます。ただ、大きくなってからでは、難しいこともありますし、小さいうちでも、性格的に、とてもとても、させてもらえないテンションの持ち主だっていますから、歯みがきが無理なら、歯みがきガムやジェル剤などの手を借りるのもひとつでしょう。

歯石は、奥歯に最も付きやすいので、しっかり、唇を引き上げて見ないと見えません。うちのこに限って…と、思ってらっしゃらないでしょうか。一度、歯石チェックしてみてください。

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2010年3月 5日 (金)

コメント・トラックバック受け付け中止のお詫び

ブログにコメント、トラックバックの受け付けをしておりましたが、無関係な宣伝等のコメントが多数入るようになり、システムに問題が発生してしまいましたので、今後、コメント、トラックバックの受け付けを中止させていただきます。申し訳ございません。

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2010年3月 1日 (月)

脳神経外科

私が、獣医大生の頃は、まだ、大学病院にだって、CTの無い時代でした。いまや、CTだけでなくMRIも撮れる時代になり、今までは、解らないことの多かった脳や脊髄の問題が解るようになってきました。

それでも、ほん数年前までは、例えば、腫瘍が見つかったとしても、ヒトのように、手術して取るなんて高度な医療技術には、まだまだ、及びませんでしたから、結局は、薬で症状を緩和していくしかなく、検査をしても、さらなる治療には結びつかないというジレンマがあったのです。ただ、「解ってあげれる」ということは、ご家族としては、大きなことですから、決して、意味がないというわけではありません。

先日、脳神経外科を手掛ける先生の講演をお聞きする機会があったのですが、まさに、眼からウロコなお話が満載でした。脳腫瘍も、発生部位や腫瘍のタイプによっては、摘出手術が可能だということは耳にすることではありました。でも、本当に、ほんの少し前まで、それは、「試み」レベルでした。ですが、ほんの短期間の間に、飛躍的に症例数、実績が増えて、確立されたものになってきています。それだけ、「望まれている」ことだということなんですね。

脳は、外界からの衝撃から守られるよう、頭蓋骨に囲まれています。そうやって、閉鎖された中にあるがゆえ、腫瘍が発生して総容積が増えたとき、脳は圧迫されるしかありません。そして、てんかん発作や神経症状が生じるのです。

症状は様々です。平衡感覚がおかしくなり、まっすぐに歩けず、ひたすらクルクル回り続けてしまったり、首が斜めになったままだったり。食べ物に程良く近づいて、口にくわえるという距離感がつかめなくなったり、思うように手足が動かず、倒れてしまったり。意識がもうろうとして、始終ボーッとしたままだったり、逆に、凶暴になってしまったり。震えが止まらなくなってしまったり、ひきつけ発作を起こしてしまったり。

程度が軽ければ、脳の腫れや炎症を抑えるような薬で症状を緩和することができるかもしれませんが、腫瘍の成長とともに、薬で緩和しきれなくなり、生活できなくなってしまったほどの問題を食い止めるには、腫瘍を摘出するしかないのです。

腫瘍のできた場所により、額からもしくは、頬の上のあたり、もしくは後頭部から手術をすすめます。ヒトなら、丸坊主にされ、大きな傷ができるだけでも、ショッキングなことですが、動物達は、自分ではそのことを嘆いたりしないことは、救われるところです。

圧迫していた、腫瘍を取り除くことで、どうにもならなかった神経症状が緩和され、もちろん、普通通りとはいきませんが、なんとか、機嫌良く暮らせる生活を取り戻せたケースが、たくさんあります。ヒトなら、それでも、残る障害や、再発の不安かかえての暮らしは、喜んでばかりもいられないところですが、動物達や、そのご家族にとっては、少々、ふらつくのも、ちょっと、おかしな歩き方だったりするのも、痛みや苦しみのないことなら御愛嬌ですし、ひょっとしたら、言葉がうまく発っせられていないのかもしれませんが、おそらく、それを嘆いたりしないことも、救われるところです。

ただ、「治る」というわけにはいきません。本来、腫瘍を摘出するなら、取り残しのないように、腫瘍の周囲をごっそり大きめに摘出するべきなのですが、脳に関しては、そんなわけにはいきません。脳のダメージは最小限にとどめて、腫瘍だけを取り除きます。MRIで取り残しがないことを確認はしますが、目でみえる取り残しがないというだけで、細胞レベルでは残っていないほうがおかしいのです。ですので、いずれは、再び大きくなった腫瘍が、問題を引き起こす可能性があるのです。

手術後、どのくらいで、再発するのかは、腫瘍のタイプや悪性度、部位にもよりますので、うまくすれば2年もしくは、それ以上の生存記録だってあるのです。たいていは、高齢の動物でのことですから、2年といっても、60歳のヒトが70歳まで生きたくらいの価値あることです。

そして、驚いたことは、意外と脳外科手術による、身体のダメージは大きくないということです。たいていが高齢の動物であるにもかかわらず、手術中に亡くなってしまうケースは、ごくごく稀で、90%は約1週間の入院後、退院できるまでに回復しているそうです。

たくさんの症例の手術前後のビデオをみせて頂きましたが、思っていた以上に、脳神経外科が、すでに、普通なことになってきています。こうやって、ご家族によろこんで頂ける技術が進歩していくことは、素晴らしいですね。

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