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2010年5月

2010年5月28日 (金)

眼内腫瘍

緑内障は、失明の危険があるということで、ヒトでも、怖がられている眼の疾患ですが、犬猫にも起こります。犬には、好発犬種があります。アメリカン・コッカー・スパニエル、シベリアン・ハスキー、バセット・ハウンド、スプリンガー・スパニエル、柴犬などです。猫では、こういった、遺伝的な素因で生じるケースは少なく、何らか他の問題に続発して生じるものがほとんどです。

例えば、事故や喧嘩で眼に傷を追ったことに続発したり、猫伝染性腹膜炎や猫白血病ウイルスのような、眼に炎症を起こす感染症に続発することが多いのです。

ですので、猫の原発性緑内障は非常に稀なので、先日、「緑内障だと思う」という、オーナーさんの宣言付き診察の依頼がありましたが、診察するまでは、「そんなの、無い、無い。」と、タカをくくっていました。

顕著な緑内障の症状としては、眼球が大きくなる、眼球が突出する、散瞳、充血、激しい痛み等です。こういった症状の緑内障と、勘違いしがちなトラブルとしては、①歯の根っこが化膿して、眼を圧迫する、②鼻炎が重症になり、眼の奥にまで膿が溜まってしまい、眼を圧迫する、③鼻の奥や、眼の奥に腫瘍が出来て、眼を圧迫する。こんなところでしょうか。ありがち度からして、歯かなあ…なんて、予測をたてていました。

そんな、私の希望的予測を裏切り、どうやら、本物の緑内障でした。その根本的な原因を探るべく、以前勤務していた動物病院の同僚で、今は、眼科専門で診療されていらっしゃる先生に、診察をお願いすることにしました。

「眼内の虹彩にできた腫瘍が、悪さをして発症した緑内障」という結果でした。治療としては、眼球ごと摘出する手術ということになります。眼を失うなんて、とても、ショッキングなことに違いありません。ですが、それはあくまでも、ヒト側の感情の問題なわけで、動物自身にしてみれば、それで、命を救える可能性があるなら、迷いなく、眼球摘出を選ぶでしょう。ちょっと、余分に振り返らないと見えないことがあるのは不便かもしれませんが、鏡に自分の姿を映して、悲観するでなく、針の穴に糸を通すような作業をするわけでもないので、少々のピント狂いは、問題ありません。ましてや、緑内障を生じた眼ならば、摘出すれば、痛みから解放され、QOLはずっとよくなります。

久しぶりに、ゴンちゃんのことを思い出していました。こちらの先生と一緒に仕事をしていた頃に遭遇した、今回の猫ちゃんと同じく、虹彩に腫瘍が発症して、眼球摘出したゴールデン・レトリバーのゴンちゃんです。器量も愛想も抜群のゴンちゃんは、いつも、大喜びで来院し、病院スタッフひとりひとりにご挨拶して周ってくれる、優等生ワンコです。お子さんがいらっしゃらないご夫婦に溺愛されて暮らす、やんちゃなひとり息子です。

それだけに、この、最愛のひとり息子ゴンちゃんの眼球摘出の話を、どんな風に切り出そうかと、先生も、気をもんだに違いありません。ですが、気丈にも、「ヒトなら大変なことだけど、所詮、犬なんだから、本人はそのことを解らないので。それで、早期摘出できて、完全治癒を望めるかもしれないなら、摘出してください。」と、手術をお任せくださいました。

長毛の犬なら、前髪を垂らすようにすると、ほとんど隠れて違和感なくなるのですが、ゴールデン・レトリバーは、顔の毛は短いですし、明るい毛色なので、どうしても、眼のないことが目立ってしまいます。もちろん、ゴンちゃんは、そんなことお構いなしで、誰かを見つけようとすると、片眼になった分、あっちを見て、こっとを見てってするにも、首を大きく振り回さなきゃならず、大忙しの、超ハイテンションです。

ほどしばらくして、ゴンちゃん、素敵なアイマスクをつけてご来院されました。競馬馬が付けているようなアイマスクの片眼用を、お母さんに手作りで作ってもらったようです。カッコいい模様の手刺繍がほどこされた、おしゃれなアイマスクです。ファッションで付けているようにしか見えません。

きっと、人気者のゴンちゃんのことですから、お散歩コースの途中、途中で、「どうしたの?」とお声をかけられるのでしょう。気丈になさってはいらっしゃるけど、内心はおつらいんだろうと、心配しておりましたが、『それは、ご心配いただいてのことですし、皆さんの周知のこととなれば、尋ねられることはなくなるので、構わないのです。それよりも、ゴンちゃんファンの皆様が、出会う度に、「可哀そうに…。」と辛いお気持ちになってしまわれるのが、お気の毒で…。アイマスクを付けてると、晴れやかな表情で、「まあ!かわいい!」って言ってくださるんです。』というお言葉。なんて、ステキなお心配りをなさる方なんだろうと、勉強させていただきました。

ゴンちゃんも、「アイマスク=お出かけ」だと、学習したらしく、アイマスクを付けてもらうと、しっぽをブンブン振り回して、テンション急上昇。そのうちに、手作りアイマスクは、バリエーションが増え、お洋服とお揃いのも登場するようになり、そのうち、オーナーさんとお揃いなんてのもありで、とっても楽しそうなゴンちゃんファミリーです。

眼内腫瘍には、悪性のものも多くあり、たとえ眼球摘出をしても、後に、再発したり、他のところに転移することがあります。幸いなことに、ゴンちゃんには、今のところ、転移・再発がありません。ずっと、ずっと、このまま、皆に元気をふりまいてもらえますように。

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2010年5月18日 (火)

ノドに詰まっちゃった事件

漫画「動物のお医者さん」のひとコマに、呼吸困難に陥った中型犬が、「ヒューヒュー」と笛のような呼吸音を鳴らしながら、大学病院に担ぎこまれるシーンがあります。いつも、失敗だらけのおちゃめな教授が、迷いなく、口の奥を覗き込み、コッヘルという手術器具で、ノドに詰まっていたマヨネーズの蓋を「これだね!」と、自慢げに取り出したとたん、「ヒューヒュー」音が止まり、呼吸も普通にもどったワンちゃんは、何もなかったかのように、スタスタと歩いて帰っていくという話です。

この、迷いなく、口の奥を覗くところが、「プロっぽくってかっこいい…!」と、当時、獣医大生だった私には、思えたのですが、案外、この感動が、後に、駆け出し獣医だった私の役にたったのです。

まだ、1歳にならないシェルティーが心肺停止状態で運び込まれました。5頭の同居犬達と、おやつのチーズをめぐって、大運動会をしていて突然倒れたということでした。(走っていて倒れる?=心臓発作?)(いや!!!もしや、チーズ…!!!=ノドに詰まった?)と、迷いなく、口の奥を覗き込むと…。「これだ!」ノドの奥深くに詰まったチーズの塊。手を押し込んでチーズの塊を取り出し、人工呼吸、心臓マッサージ、強心剤投与…。まだ、若い元気なワンちゃんだったこと、オーナーさんがそばに居たので、早急に病院へ連れてこれたことが幸いして、心臓が動き始め、呼吸を取り戻し、意識が回復。半日、病院で酸素吸入を受けた後、元気に走って帰ることができました。帰りがけに、「チーズは小さくしてやらなきゃね。」と、オーナーさん。(それでも、やるんかい!懲りてないのか…。)

僧帽弁閉鎖不全症をかかえた高齢のマルチーズさんが、ノドに詰めちゃった事件を起こしたこともありました。ちゃぶ台には、切り分けてお皿に盛られた大好物の柿。こっそり、失敬しようとしたところをお母さんに見つかってしまい、「こらっ!」と叱られたのに驚いて、「ゴクッ」………バタッ………。その時に、柿は吐きだしたようですが、倒れたまま。来院時、かろうじて心臓は動いていましたが、呼吸はしていません。人工呼吸、強心剤投与の緊急措置のかいあって、呼吸再開、意識もなんとか戻って一命を取り留めました。ただ、もともと、心臓病を抱えていることもあり、その後、3日間、重度の肺水腫との闘いでしたが、元気になって、無事退院を果たしました。

ヒトでも、ご高齢で飲み込む力が弱くなると、お餅などをノドに詰めてしまう事故が起こりやすくなるという事は、報道番組でも注意を促していることですが、私の身近でもこんな事故がありました。看護士をされている知人が、まだ、小学校に入る前のお嬢さんを助手席に乗せて運転中、パンをかじりながらウトウトし始めたお嬢さんが、口に入れたパンを飲み込めず、ノドに詰まらせたようです。血色が悪いことに気付いて、車を止め、お嬢さんを逆さ吊りにして振り回し、詰まったパンを吐きださせてから、勤務先の病院へ運んだので、大事にはいたらずすんだそうです。さすがですよね。救急車を呼んで、オロオロしてたら、助からなかったでしょう。私とて、動物なら、機転を効かせられそうですが、恥ずかしながら、ヒトだと、オロオロしてしまいそうです。

そういえば、猫ちゃんで、ノドに何かを詰めてしまったて話は聞かないですね。用心深くて、ワンちゃんのように、丸のみでバクッとは食べないからなんでしょうね。

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2010年5月10日 (月)

GW実家往診

GWが終わりました。今年は、ずっと好天に恵まれましたので、GW休暇をとれる方々は、楽しく過ごされたのではないかと思います。当院も、カレンダー通りに休診とさせていただいておりましたが、私は、入院猫のお世話、治療の合間をぬっての、プチGWということになります。

それでも、この間に実家宅のワンのワクチン往診を済ませておかなければ、なかなか、行けずじまいになってしまい、気になり続けなければならなくなりますし、この時期に行っておけば、ワンのワクチン、母の日、父の誕生祝い、父の日と…、めいっぱい、まとめて済ませることができるので、好都合なのです。ということで、奮起して、はるばる南の国、泉州まで行ってまいりました。

それでも、何か、贈り物を考えて、準備して…というのが、めんどくさい…なんていうのは親不孝でしょうが、どのみち、欲しいものも、好みのあるものは、自分で揃えた方がいいのでしょうし、と、言い訳にして、ここ数年は、ワンのものを、まとめてお届け!で、済ますことにしています。

自宅裏のどぶ川のせいか、蚊が多いので、一年中飲んでるフィラリア予防薬。山に近いので欠かせないノミ・ダニ駆除剤。うちのワンが唯一食べて吐かないフード、W社の消化器疾患用処方食。かれこれ5年以上、毎日欠かさず飲ませている、心臓弁膜症の薬。去年から、追加された肝臓の薬。

それに、今年は、母からのリクエストで、歯みがきペースト。犬用のモルト味とチキン味の2種類です。先だって、歯石はどうにかしてほしいけど、麻酔をかけるのがイヤだと母が言うので、ハンドスケーラーで大きな歯石の塊だけを落とすことにしましたが、「こんなことしても意味ないし…。嫌がるのを無理矢理やろうとする方が、心臓の負担になるんだから!」と、お怒りモードだった私に、今回は、少々反省したらしく、それ以来、頑張って歯みがきしてるんだそうです。

歯みがきで、歯垢は落ちますが、歯石は取れません。ところが、案外、キレイになってたんで驚きました。取れないはずの歯石が若干減ってるように思いますし、歯周が赤くなっていたのが無くなっていました。歯垢・歯石が減ったのと、マッサージ効果で歯周炎が治まったようです。

「ほおー。」(これは、ホントにやってるわ。)と、驚きと感心です。仕事を退いてから、ゆとりだらけの暮らしになり、いじれる孫がいるわけでもない母にとっては、唯一、愛情を注ぐ対象がワンなんでしょう。うちのワンにしてみれば、いつもいつもベッタリ一緒に居られるようになり、喜んでるかもしれませんが、にわか、色々といじられ始めて、いい迷惑かもしれません。

彼女は、推定年齢13歳のワンです。5年ほど前から、すでに、中程度の心臓弁膜症がありましたので、ここまで、症状無くこれているのは、ずっと内服を続けてきたお陰に違いありません。それでも、もっと、早くに症状が重篤化するケースをたくさん診ているので、かなりラッキーなケースだと、私は喜んでいるのですが、母は、そのラッキーさを解ってはいないかもしれません。

あと、1年か2年。私は、そのくらいの近い将来、何らかの不調が出ると、想定しているのですが、母は、まだまだ、先のことだと、思っているに違いありません。いつか、年老い、亡くなってしまうことは、理解しているつもりでも、今はそこそこ元気なので、何かが起きてからでないと、気付かないものなんでしょう。

そんな、いつもべったり一緒なワンと母の暮らしぶりをみていると、微笑ましいことではありますが、複雑な心境でもあります。年老いてきた、ワンの体調は、もちろん心配ですが、それ以上に気がかりなのは、同じく年老いてきた母が、ワンとお別れしなければならなくなる時を、心安らかに迎えさせてあげれるだろうかということです。

ペット・ロスの問題は、案外、深刻です。心と身体のバランスを崩して、取り返しのつかないことにだってなりかねません。そんなことが、心配になった、今年のGW往診でした。

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