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2011年4月 7日 (木)

高齢動物の麻酔

「もう、歳だから…。」

高齢動物が、全身麻酔をしての手術や処置が必要になった時、GOなのかSTOPなのかを悩んで、STOPを選ぶときの理由は、なんとなくコレです。なんとなく、高齢なゆえの衰えは、麻酔リスクになるのであろうことは、ご理解いただけているのだと思います。

麻酔薬は、脳をマヒさせる薬です。で、意識や、感覚がなくなるのです。どんなに医学が進歩しても、薬の開発が進んでも、安全な麻酔なんてありません。脳がマヒするのですから…。心臓の動きや呼吸を弱めてしまいます。血液のめぐりが悪くなり、酸欠になった身体中で、緊急事態大発生の状況になります。

ですが、生き物の身体には素晴らしい機能が備わっていて、状況を元に戻すための反応が次々と働いて、平常を保とうとします。もっとも、健常であれば…の話です。

では、高齢になると、何がどうなるのか。ひとつ、ひとつ挙げてみると、様々なリスクがあるものです。

まず、若い頃に比べて、身体の筋肉が減ってきます。(耳の痛い話です。)そうすると、麻酔薬を投与した際に、薬が分布するところが減る分、脳にまわる薬の量が増えてしまいますので、効きすぎたり、脳からの排泄に時間がかかり、覚めにくくなってしまいます。

そして、筋肉が減る代わりに、脂肪割合が増えます。(ますます、耳の痛い話です。)すると、脂溶性の麻酔薬は、初めは身体にまわりすぎて脳に効きにくく、その後、身体に残りすぎて麻酔薬の作用が強く出すぎたり、覚めづらくなるという問題をおこします。

体内の水分が減ります。(水分不足は肌だけではありません。)たくわえが無い分、軽い脱水症状にも耐えられず、麻酔時の血圧低下に耐えにくくなります。

心臓や血管も衰えます。筋肉の弾性、伸縮性が悪くなると、血液を押し出し、循環させる仕事力が低下します。さらに、弁膜症などの心臓病を患う動物もいます。

同じように肺も伸縮性が悪くなりますし、息を吸い込むのに、胸を膨らます筋力も衰えるので、呼吸力も低下します。

肝臓や腎臓の機能が低下しているので、麻酔薬の分解、排泄に時間がかかります。その他、内分泌関係が代謝低下傾向なのも、状態を落ち込みやすくさせてしまいます。

脳も、老化に伴い縮みます。(ぞっとする話ですが…。)活動できている細胞も減っていきます。その分、残っている脳神経細胞には、高濃度に麻酔薬がいきわたりがちになるのです。

そんなこんなの結果、麻酔薬による全身緊急事態は、より重篤になりがちで、かつ、そこからの復活力は乏しいのですから、とっても、とっても危険なことです。

ですが、全身麻酔が必要とあらば、緊急事態に陥るのを未然に防ぐための監視を怠らず、麻酔薬による悪事を最小限にとどめる配慮や施しをするのが、私達、獣医師の使命なわけですね。

動物の社会も高齢化していて、高齢動物に麻酔をする機会は、グンと増えています。以前に比べると、麻酔前にできる検査も、麻酔中の監視装置も、獣医療の技術も、随分と進歩しましたが、それでも、予測しきれないことが起こらないとも限りません。かなり神経を使う仕事のひとつです。

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