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2011年8月

2011年8月25日 (木)

HBC

よくある疾患名は、簡便なように略して呼ぶことが多いのです。たいてい、英名のつづりから頭文字をとって、アルファベット2文字~3文字のものが多いのです。

例えば、慢性腎不全(Chronic Renal Failure)ならCRF。肥大型心筋症(Hypertrophic Cardiomyopathy)ならHCM。猫の泌尿器症候群(Feline Urolgic Syndrom)ならFUS。などなど。

カルテには手間を省いて、こういった略語で記入することが多いのですが、獣医さんになりたての頃は、和名は知っていても、略語を知らなかったりして。でも、獣医さん的には、常識的知識だったりすることなので、先輩先生に尋ねるのも気がひけて、こそこそ調べて勉強したものでした。

ある時、どんなに調べても解らない略語に遭遇しました。診断名がHBC?????頑張って調べましたが、どうにも手掛かりがつかめないので、意を決して、先輩先生に尋ねると、ニヤッと笑って「Hit By Car!」。そのまんま。「車にはねられた!」でした。どうやら、先輩先生も、獣医さんになりたての頃、同じように尋ねたようですね。先日、久しぶりに、カルテに「HBC」と記入して、そんなこともあったと懐かしく思いだしてしまいました。

大学では習わないことですが、海外の先生の講義を聴いていると、ちょくちょく出てくるお決まり略語です。TA(Traffic Accident)ということもあります。

近頃では、完全室内飼育が浸透してきたので、めっきり減ったHBC。ですが、脱走してしまったときなどには、事故に遭ってきている可能性もあるので要注意です。

猫ちゃんのHBCは、外傷がほとんどないこともあります。もろに踏まれたり、頭部と衝突したりしていれば、大出血の惨事ですが、ポンッと跳ね飛ばされる事故だと、見た目の出血など全くないこともあります。ですが、強くたたきつけられたせいで、全身に出血やダメージが生じていますし、膀胱破裂や尿管断裂など、そのままでは尿がお腹の中に漏れ続けて、死に直結する程の惨事が隠されていることがあるのです。  

これは、仕方ないことなのですが、たいていのヒトは「血」を見たり、手足があらぬ方向に向いてプランプランしているのを見ると、「大変!!!」となります。そして「血」が出ていないと、妙に安心してたり、油断してしまうものです。

もちろん、外傷や、手足の骨折は大変なことですが、たいていは、すぐさま命にかかわる問題にはなりません。むしろ、外から見えない内蔵の問題が重要です。HBCの診療は、まず、「大変!血が出てる!骨折してる!」とパニクッてるオーナーさんに、本当に重要なことから診療を進める事を、お解りいただけるように説明することから始まります。

先日、来院されたHBCの猫ちゃんは、駐車場で居眠りしていて、帰宅されたお父さんの軽自動車にはねられてしまったということでした。「驚いたらしく隠れこんでしまっていたが、どこからか出血しているようだ。」とのこと。一見、事故に遭ったとは思えないほど普通です。見て解る出血は、下腹部に擦り傷が少し。それと、陰部の毛に血が付いていました。(きっと、血尿。もしかしたら、膀胱破裂や尿管断裂。)内心、そんな心配をしながら、全身チェックの開始です。

結果、驚くことに、横隔膜破裂を起こしていました。胸と腹の間を分けている膜が裂けて、肝臓や腸が胸の中へ入り込んでいます。こうなると、肺が十分に膨らまなくなるので、命にかかわる緊急事態なのです。ただちに、救急処置をほどこして、緊急手術です。膀胱破裂や尿管断裂を合併していなかったのは、不幸中の幸いでした。両方の緊急手術となると、長時間に及ぶ大手術になるところでした。

それでも、なんと15歳のご高齢の猫ちゃん。この状況で、手術に耐えてくれるか心配しましたが、驚くほどの回復力で、無事、退院の日を迎えることができました。みんな、帰れるとなると、喜び勇んでキャリーに入るものですが、どうも、キャリーに入るのを嫌がるので不思議に思っていたら、なんと、驚きの真事実。今回、事故に遭ってから、連れてくるために、キャリーを買いに行ったんだとか。だから、「初めてだから、来るときも、入るの嫌がって、大騒ぎしたんです。」とお父さん。

「そんな、悠長な…。」思わず、言ってしまいましたが、こんな大事になっていたとは解らないものですから、仕方ないです。胸が苦しいのに大騒ぎさせると、そのまま、呼吸が止まって、亡くなってしまう事だってあります。無事、元気に帰れて何よりでした。15歳にもなって、自分ちの車にはねられるなんて、お気の毒なばかりでした。その分、長生きしてほしいものです。

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2011年8月15日 (月)

血圧測定

ヒトでは高血圧が心筋梗塞や脳卒中に大きく影響する心配があることなどから、健康管理上の必須項目になっています。病院だけでなく、いろんなところで血圧測定する機会がありますし、家庭用測定器も一般的になっているので、自宅で毎日測定している方も多いと思います。なので、たいてい、自分の血圧がどのくらいなのかご存じだと思います。

動物の医療では、まだまだ日常診療に血圧測定が組み込まれていないのが現状です。その理由は、手軽に測定できて、かつ、信頼性の高い器械が無かったこともありますが、何より、病院に連れて来られた動物の状況からするに、落ち着いて血圧測定できることのほうが少ないからです。

ヒトでは、「白衣性高血圧」とか言って、病院でドクターや看護士さんに腕をとられるだけで「ドキドキ」、高血圧になってしまうというヤツがあるようです。ましてや動物のほうが、病院に来た時の緊張度が高いでしょうから、本来の血圧を測ることは不可能に近いのです。

それでも、日頃から測っておけば、そのコなりの変化をつかむことが出来ますので、日常診療に血圧測定を組み込むことは、望ましいことですし、少しずつ取り入れられるようになってきています。

動物の病気で、高血圧をおこすものは、腎臓疾患、ホルモン疾患、心疾患などなどですが、猫ちゃんで多いものは、腎疾患、甲状腺機能亢進症、糖尿病、心疾患です。高血圧になると、腎臓、心臓に負担がかかるので、どちらも悪くしあっていくことになってしまいます。

動物の血圧測定も、メカニズムはヒトと同じです。ヒトはたいいてい腕を心臓の高さにして上腕にカフを巻いて測りますが、動物で正しい姿勢をとるのは難しいです。カフを巻くのは、前肢か後肢、あるいは尾という手もありますが、どうも、尾の付け根あたりをいじられるのは嫌がりますし、猫ちゃんはたいてい後肢をたたみ込んで座るので、うまく巻けなかったり、圧迫されるので正しく測定されているかも不安です。で、いやがらない度、心臓の高さに近い度からすると、前肢が一番ましかなあ…というのが、私の見解です。

当院でも、必要によっては、麻酔中の状態を監視する器械に付いてる血圧計で測定していましたが、大きな器械なので、診察室に運ぶのはたいそうですし、猫ちゃんを手術室に移動してもらうのも、無駄に興奮させる気がして、なかなか、日常診療に組み込めずにいたのが気掛かりではありました。

2071_1 先日、参加した腎臓病セミナーで、血圧測定器についてお聞きする機会があり、講師の先生お薦めのものを当院でも取り入れることにしました。「コレ?」っていうくらいオモチャちっくです。ですが、それがまた、いいようですね。講師の先生いわく、おおげさな器械ものを持ち込むと、それだけで動物がビビるそうです。なので、そっと、ポケットから出して測れる感じが、まだ、警戒心をあおらずに済むようなんです。

あまりにもオモチャちっくなので、ちゃんと測れるのか、試しに私の指にカフを巻いて測定してみたら、ヒトの測定器で測るのと同じくらいのデータでした。「おー。測れてる。」測れなかったら困るんですが、指できちんと測れる精度の良さに、思わず感心してしまいました。

測定方法は極めて簡単です。前肢にカフを巻いたら、黒い持ち手の部分を握ってカフに空気を送りこむだけ。あとは、自動で、心拍数、収縮期血圧(上)、拡張期血圧(下)、平均血圧を測定してくれます。こんな風に、超リラックスして前肢を伸ばして測定できる猫ちゃんは、めったにいないと思います。さすが、モデル猫さんです。

P8120864_5 例えば、当院で測定した猫ちゃんはこんな風。キャリーの中のほうが落ち着くかな…と、中に入ったまま測定してみました。でも、ものすっごい不愉快そうです。「なんじゃコレ!」ってな視線ですね。意外だったのは、この血圧測定をする際に多い、オーナーさんのリアクションです。「カフが小さくてかわいいー!」です。なるほど…。私達は見慣れているのですが、初めてご覧になったら、そう思うでしょうね。

あるデータによる動物の血圧リスク分類はこうなっています。上<150・下<95なら最小リスク。上150~159・下95~99なら低リスク。上160~179・下100~119なら中リスク。上>180・下>120なら高リスク。なので、ヒトよりは少し高めです。ただ、病院に来るだけで、興奮、緊張状態になっていることを考慮すると、上>180・下>120でなければ、平常時はまあまあ…なのかな?と考えるのが妥当なようです。

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2011年8月12日 (金)

お盆中の診療案内

とくに、お盆休みはもうけておりません。

通常通り、日曜のみ休診となります。

お盆中、ワンちゃん、猫ちゃんを連れて、ご旅行、帰省される方もいらっしゃるかもしれません。ペットと泊まれるペンションなんかも増えましたし、近頃のSAにはドッグランもあったりしますね。

とっても楽しいお出掛けですが、くれぐれも、ワンちゃんは興奮しすぎて熱中症にならないように気配りしてあげてください。

猫ちゃん同伴は、よほど慣れていないと、緊張し過ぎて体調を崩してしまうこともあるかもしれません。「酔い止め」の薬もありますので、御相談ください。

ほんとに、極暑です。お身体に気をつけて、楽しいお休みをお過ごしくださいませ。

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2011年8月 1日 (月)

見えた!白内障のニャンコの眼

ときおり、「眼が白く濁ってきたけど、白内障ですか?見えなくなるんですか?」と、ご心配されて尋ねられることがあります。ですが、ヒトや犬と異なり、猫の白内障は、非常に稀です。白く濁って見えるのは、たいてい、「核硬化」といって、水晶体(レンズ)の古びた成分が濁って見えるだけのことで、視力の妨げになるものではありません。

ヒトの白内障は、加齢性のものが圧倒的に多いそうです。糖尿病によるものも、先進国では上位を占めるようです。

犬では、それ以外に、遺伝性のものもあります。プードル、コッカ―スパニエルは、その代表選手で、若くても白内障になります。他に、全身疾患や眼科疾患から続発するケースも少なくありません。

猫ではマレな白内障ですが、眼の炎症やダメージに続発するケースがほとんどです。以前、診療したケースもそうでした。まだ、2歳にもならないヤンチャなニャンコちゃんでした。かつて、交通事故に遭って、その際に強くぶつけたことの後遺症から、白内障を起こしてしまったようです。

眼が見えないことなど、全く苦にしていないようなヤンチャぶりで、治療中はもちろん、入院室の中でも、いろんなもの、壁、扉に、体当たりしたってへっちゃらの大騒ぎ。見えないことを嘆いている風ではありませんが、まだまだ、長いこれからの猫生。「見える暮らし」をさせてあげたいというのが、オーナーさんのご希望です。

白内障の治療は手術しかありませんが、どんなケースでも、手術をすれば見えるようになるわけでもありません。網膜という、眼の奥にある光を感じる膜の反応が悪くなっている場合は、見えるようにはなりません。眼以外の体調が、かなり重篤な場合も、良からぬ結果になる恐れが高いので、手術はすすめられません。そして、動物ならでは、治療に非協力的な場合もNGです。安静に出来ない、点眼出来ない、内服出来ない…のでは、どんなに手術が上手くいっても、良からぬ結果になるからです。最悪の最悪は、眼球を摘出しなければならないなんてことも起こりえるのです。

さてさて、このニャンコちゃんの問題は、治療に協力してもらえるかの一点です。なかなかの難儀者でしたが、こちらも、点眼、投薬のコツをつかみ、なんとか、手術とその後の治療を終えました。手術直後は、眼の中に濁りが出るので、視力の回復具合が解りづらいものですが、このニャンコちゃんも、いまひとつ、「見えている」感じがしません。あいかわらず、いろんなものに体当たりして大暴れです。

ちょっと、がっかりの退院の日。オーナーさんに、あまり期待しすぎないようにお伝えしながらも、期待を捨て切れず、診察室を歩かせてみようと、そっと床に置いてみることに。キョトンとして、クンクン臭いを嗅いでいるので、(やっぱり、見えないのかあ…。)と、言葉にできず無言で様子を眺めていると、スムーズにスルッと椅子を避けて歩いたような…。「え!?今の!!!偶然!?」一同、大盛り上がりでしたが、眼の前に手をかざしても、瞬きしないし、物を眼で追ったりもしないので、「偶然?だったのかなあ…。」と、再び消沈の退院となってしまいました。

それから、しばらくして、嬉しい贈り物が届きました。そのニャンコちゃんの様子をビデオ撮影してくれたものです。猫じゃらしに夢中で飛び付き、追いかけ、左右にブンブン振られた猫じゃらしを、同じスピードで、ブンブン首を振って必死の注目です。見えるようになってたのです。私の獣医さん経験の中でも、トップ10に入る感動でした。

ただ、嫌なことを言うようですが、猫という動物ゆえに生じる、その後のトラブルがあります。ダメージがもとで、眼内に肉腫(悪性腫瘍)をつくることがあり、これは、生命を脅かす行く末となります。白内障の手術をすることそのものが、眼内へ強いダメージを与えることになるので、低い確率ではありますが、覚悟はしておかなければならないのです。

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