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2011年9月

2011年9月30日 (金)

甲状腺機能亢進症~甲状腺ホルモンT4の院内測定が可能に!~

甲状腺機能亢進症は、猫で最も多くみられる内分泌疾患です。90%が10歳以上と、高齢猫に多い疾患ではありますが、その発症は3歳から報告がありますので、必ずしも高齢のみに限っておきる疾患ではありません。品種や性別による差は、まったくありません。

症状は、重篤度によって異なります。早い段階で発見された猫の症状は比較的軽いか、無症状のこともあります。重症になると、典型的な症状がみられます。多食にもかかわらず体重減少あるいは食欲不振、多飲多尿、活動過剰あるいは不活発、頻脈、嘔吐、下痢、パンティング(口を開けて、ハアハア)、艶がなくフケが多いなどの毛並みの悪さなどなど。症状は多岐にわたりますし、いずれもこの疾患だけに出る症状ではありませんから、そのうちの1つ、2つが当てはまるからといって、症状だけで診断はできません。

まず第一段階の検査としては、血液中の甲状腺ホルモンそのものであるT4値の上昇があるかを調べることです。今まで、この検査は、検査センターに依頼しておりましたので、結果を知るのに数日要しました。緊急性を要する疾患ではありませんが、その結果を待ってからでないと、治療方針がたたないというのは、もどかしいことです。数日後に問い合わせのお電話をいただくのもお手間なことでしょうし、治療開始の必要があるからと、再び、薬の処方のためにご来院いただくのもご足労なことです。治療開始後に、薬の量を調節するためにT4値を知りたい場合などは、すぐに知りたいところです。

そこで、この度、このT4値の測定を、少ない血液量で測定できる器械が新たに開発されたのを機に、当院でも導入することにしました。この機器は、他に、コルチゾールという副腎ホルモンの測定もできますし、現在、総胆汁酸といって、肝臓障害で上昇する数値や、ジアルジアという消化管内寄生虫の寄生レベルを数値化して測定できる試薬なども開発中とのことで、続々と、診療に役立つ検査が増えそうな期待の機器なのです。

ただし、どんな検査も100%の精度を持つものは無く、このT4も、甲状腺機能亢進症の15%程度では上昇がみられないケースもあります。ですので、T4が正常値の場合、それでもなお、この疾患が疑わしい場合は、FT4やTSHなど、検査センターでしか測定できない検査も合わせて評価しなければなりません。

私が獣医師になりたてのころは、まだ、動物専門の検査センターも少なく、検査できる項目も限られていて、そのほとんどを、ヒトの検査センターに依頼しておりました。ヒトと動物で、データのレベルが異なるものは、検査結果があまり役にたたなかったりしましたので、この甲状腺ホルモンも積極的には測っておりませんでした。

近年、動物専門の検査センターが充実してきたことで、甲状腺ホルモンの測定も信頼できる検査が行えるようになり、検査頻度が高まるとともに、甲状腺機能亢進症の発見も急増しています。

当院でも、甲状腺機能亢進症は非常に多く発見されていますが、診断がくだるケースはこんなのが多いです。①食欲は変わりないのに、体重が減った。②尿比重(濃さ)が低いワリに血液検査の腎数値が悪くない。③血液検査で感数値が高い。④食欲はあるけど、よく吐く。⑤食欲はあるけど、よく下痢をする。⑥診察中の心臓ドキドキが超激しく、ハアハアしたりもする。

なので、こんな症状がみられたら、甲状腺ホルモンの測定は必須ですが、できれば、こんなことにならない前に、定期的に測定することが望ましいと思います。どんな疾患もそうですが、重症になってしまい、どんどん色んな臓器に影響が及んでしまうと、コントロールするのが難しくなってしまいます。甲状腺機能亢進症の存在が解っても、よほど腎臓や肝臓が悪いと、治療できないこともあり、拍車をかけて進行する悪循環をどうにもできないということになってしまうのです。

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2011年9月21日 (水)

ラスカル若尾

脈々と受け継がれた、外科学教室教授大先生のあだ名です。「ラスカル」は、昔、メジャーだったアニメ番組の「あらいぐまラスカル」の「ラスカル」です。

テレビ番組などで、ご覧になったことはあるかと思いますが、外科手術の前には、ブラシと消毒剤で手から肘までを洗浄し、滅菌したタオルで手を拭いてから、手術用ガウンを着て、手袋を装着します。手術するところに、雑菌を入れないように、全ては無菌的に行われなければなりません。

こんなことにも、正しいやり方があるわけですが、ラスカル若尾先生は、ズブの素人の学生に、この手術準備を徹底してマスターさせんと、それはそれは熱心!!!なことで有名でした。ちょっと、順番を間違えようものなら、背後から大雷です。何十人もの学生を、一人ずつテストして、ミスったら、「ダメー!!!!練習してこーい!!!」で、最後尾に並び直してやり直し。大雷が怖いのと、早く解放されたいのとで、皆、必死で練習しました。この苦難から、ちょっと皮肉って、付けたあだ名が、「ラスカル若尾」。手洗い上手なアライグマの「あらいぐまラスカル」です。

この私も、大雷を落とされること経験済みです。病院実習で大学病院の手術に入らせていただいた際、器具係を引き受けることになり、ラスカル若尾先生の見張りのもと、身支度をすることに。もう、外科実習で完璧にマスターしてましたから、自信満々で手を洗い、手を拭き…のつもりが、「ん?」と、思った瞬間!「反対の手はどうやって拭くんだー!!!やっり直しー!」と大雷ドッカン!いただきました。

手拭きタオルが1枚の場合と、2枚の場合では、やり方が異なります。外科実習のときは2枚だったのに、大学病院は1枚だったなんて。(そんなこと、知らなかったしー…)と、内心、不服感いっぱいの私でしたが、さすがの私でさえ抗議する勇気は持てず、スゴスゴと手を洗い直したのでした。

そんな、熱血教授も、昨年で、大学を退官され、名誉教授となられました。自分が指導を受けた先生方が、大学から去られてしまうのは、物心ついたときから、働いているのが当たり前に思っていた父が定年退職したときのように、寂しい気がします。

先日、ある研究会で創立45周年記念のイベントを開催し、その記念特別講演に、ラスカル若尾先生をお招きしました。45周年と中途半端なのは、長年お世話になったラスカル若尾先生をお招きする最後のチャンスということもあっての、無理やり開催という理由もあったのです。

年齢のわりには、随分とお若く見えますが、それでも、以前よりは落ち着いた風情になっておられました。今は、動物看護士を養成する学校では、初の四年制大学となった学校で、教授としてご活躍だそうです。お話いただいたテーマも、「動物看護士の養成について」なんて、教育論です。心臓を専門として活躍されてらっしゃった先生からは想像できない演題に、寂しい感がしないでもありません。

ですが、その寂しい感は、見事に裏切られました。さすが、何をやってもスペシャリストの方です。その教育論を熱く語り、議論されるのを拝見して、感動さえ感じました。確かに、動物看護士の養成という分野は、獣医療の発展に伴って、必要不可欠な人力となってきたこともあり、より戦力となるようレベル、資質の向上が期待される、これから飛躍的に成長する分野に違いありません。

第二の人生の仕事として…と先生は、おっしゃられていましたが、普通、第二の人生って、もっと穏やかなものじゃないんでしょうか。なのに、熱血大爆発なので、ちょっと滑稽だったり、嬉しかったりでした。今も熱血なことに、驚きもし、安心もさせられ、私も頑張らなきゃと励まされ、まだまだ、もっともっと、熱血でいて欲しいと願う…、色んな思いでいっぱいの再会となりました。

大雷は落ちませんでしたが、優しい「喝」を入れていただきました。私なんて、まだまだ若僧!気合いを入れ直して、精進せねばなりません。

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2011年9月 9日 (金)

子宮蓄膿症

なぜかしら、どこの動物病院でも、ある病気の来院があると、もう1件、もう2件と、同じ病気での来院が続くといった話を耳にします。気候が関係してる膀胱炎とかなら、不思議ではありませんが、交通事故とか、腫瘍とか、おおよそ、流行りのものでないのに、同じ病気が続くように感じるのは、気のせいなんでしょうか。

当院では、このところ、「子宮蓄膿症」が大流行りです。名前の通り、子宮に膿がたまる病気です。2通りのタイプがあって、陰部からおりものが出るタイプと出ないタイプがあります。出るタイプのほうが、早く気付いてあげれますし、子宮内の細菌の排泄口があるということで、比較的、軽症のうちに来院されることが多いです。排泄されずに溜まる一方のタイプでは、細菌毒素が急速に全身に回ってしまい、来院された時には、すでに、腎不全、肝不全…最悪、ショック状態で瀕死の状態のことも…。

なんてこともあるのですが、そこまで進行していない時点でも、何らかのサインは出しているはず。なんでしょうが、それがなかなか、どうしたって解ってあげられないことも多いのです。動物の診療は難しいと感じさせられること多々あり、大反省も多々ありです。

ある、子宮蓄膿症の猫ちゃんの主訴は、「後肢を痛そうにする」でした。丸々と太った、中高齢の猫ちゃんです。そりゃあ、足腰も痛くなって当然!な体型ですし、少々、怒りん坊につき、どこを触っても「シャー!!ター!!」って、「それじゃあ、どこが痛いのかなんて解らないよ…。」ってことで、後肢から腰にかけてのレントゲン撮影を行うことにしました。

慣れないレントゲン撮影に激怒して、おしっこ漏らしまくりの大興奮になってしまいましたが、幸か不幸か、このおしっこが、病気発見の糸口になりました。かなり、色が薄く、かつ濁っています。変な臭いもあります。薄い=腎臓機能低下や糖尿病、濁りや悪臭=細菌感染の疑いです。調べてみると、やはり、尿には細菌がいっぱい、血液検査で腎臓も悪くなっていることが解りました。

そこで、想像力を働かせるべきところは、避妊手術を受けていない場合、始まりの始まりは、子宮の病気かもしれないということです。ヒトとは違って、膀胱の出口は、子宮の出口の膣に開口しています。なので、子宮内の細菌は、容易に膀胱に侵入してしまいますし、更に、腎臓へ、全身へというのは、お決まりルートだからです。

なんと、この猫ちゃん、「ビンゴ!」でした。丸々太っていて、元気も食欲もあるとのことでしたし、まさかの子宮蓄膿症です。痩せてて、大人しい猫ちゃんなら、触診するだけでも、腫れた子宮に気付けたかもしれませんが、、、、などと、言い訳はいけませんね。大反省ですし、大勉強です。

全身に細菌が回ってしまうので、弱っていた関節の炎症をひどくしてしまい、後肢が痛くなる…というシナリオはありだとは思います。が、ひょっとして、ひょっとして、本当はお腹が痛かったのではないのだろうかと思ったりもします。お腹をかばって、腰くだけ気味にヨロヨロと歩く様が、「後肢が痛そう」にみえたのかもしれないと…。本当のことは解りませんが、ホントに、大反省ですし、大勉強です。

今日、無事、卵巣・子宮を摘出する手術を終えて、今はまだ、爆睡中の怒りん坊ニャンコちゃん。怒ってもいいから、早く元気になってね。

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