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2011年11月

2011年11月30日 (水)

進化した猫3種混合ワクチン=強毒全身性カリシウイルスを予防

私が、初めて猫のワクチン接種にチャレンジしたのは、大学5年生の夏、当時の愛猫「雲地(うんち)」くんのために、アルバイト先の動物病院で譲っていただいたワクチンを接種した時のことです。獣医さんの卵の私が、ちゃんと接種できるかを心配されて、「太い針のほうが、失敗がないから。」とおっしゃって、太目の針を準備してくださいました。確かに、太い針は、少々動かれても抜けにくいのと、注射液の注入がスムーズなので、いさぎよく太い針を刺すことに慣れていれば、失敗は少ないかもしれません。

ワクチンを注射器に吸って、さあて、打つぞと意を決し、雲地くんに近寄る私と、嫌な気配を感じるのか、スタスタ去ろうとする雲地くん。これじゃあ、ダメだと、雲地くんを診察台代わりに、テーブルにのせ、首の後ろを掴んで、いざ接種…のつもりが、大学の実習で使った細い針なら、手ごたえなくスッと刺さるのに、太い針はツンと当たるだけで刺さりません。痛くてびっくりの雲地くんは、飛んで逃げてしまうし、大失敗です。

これ以上興奮させては、接種できなくなるし、溶解してしまったワクチンは保存できないので、今すぐ接種するしかないし、「接種できなかった。」なんてカッコ悪いし!と、心を決め、雲地くんを部屋の隅へ追い込み、卵を温めるペンギンのように内股で逃げられないようにガード。エイッと、鈍い感触のある太い針を刺して、ワクチンを無事注入。私も、雲地くんも、鼓動はドキドキ、足はガクガク、手はブルブル。のくせに、「ちゃんと注射できた?」と聞いてくださった先生には、「はい。大丈夫です。」と、全然、楽勝だったフリをしてしまいました。

あの頃は、まだ、3種混合ワクチンしかありませんでしたし、ワクチンメーカーも限られていました。その後、猫白血病ウイルス感染症のワクチンが開発されたのは、センセーショナルなニュースでした。当初は、単独のワクチンでしたが、数年後、混合ワクチンに組み込まれたものも開発されました。3年前に猫後天性免疫不全(猫エイズ)ウイルスのワクチンが開発されたのも、同様、センセーショナルなニュースでした。

ヒトの方でもそうですが、ウイルスは少しずつ変化し、生体の免疫獲得に抵抗しようとします。ワクチンもウイルスの変化を追って、進化させていかなければなりません。今や、たくさんのワクチンメーカーが、より良いものを開発せんと、競う時代となりました。

この度、ここ最近では画期的に進化した3種混合ワクチンが開発されました。大きな進化ポイントとが2つあります。1つは、カリシウイルス感染症に、もう1つ株が追加され、予防できる株の範囲が広くなったことです。とくに、近年、報告があがってきている、強毒全身性ネコカリシウイルスという、発熱、皮下浮腫、頭部や下肢の潰瘍、黄疸など重篤な全身症状を呈し、67%以上もの高い死亡率が特徴の、恐ろしい強毒株をも予防できるワクチンは、これ、唯一です。

もう1つのポイントは、不活化ワクチンなのに、アジュバントを含まないということです。これも、「初」な画期的な開発です。

ワクチンには、生ワクチンと不活化ワクチンがあり、それぞれメリット、デメリットがあります。不活化ワクチンのメリットは、ウイルスを不活化=つまりは殺してしまっているので、ワクチンに含まれるウイルス成分に悪さをうけることがありません。デメリットとしては、その分、そのままでは免疫反応が弱いので、反応を高めるための「混ぜ物」(=アジュバント)を入れなければならないことです。ネコでは、しばしば、このアジュバントに過剰反応してしまって、発熱、接種部位の硬結や痛みが問題となることがあります。ワクチンに限ったことではありませんが、特異な体質を持っていて、硬結が腫瘍化してしまうケースが稀にあるので、最も避けたい副反応です。

一方、生ワクチンでは、ウイルスの毒を弱くするか、無くしたものを使用していますが、体調体質によっては、その弱い毒に負けてしまって、発熱などの副反応を引き起こしてしまいます。メリットとしては反応が良い分、早く、高い免疫獲得が出来ることと、何といっても、心配のタネであるアジュバントを含んでいないことです。

ただ、それぞれの猫ちゃんで、「合う」「合わない」もありますので、当院では、メインはアジュバントを含まない生ワクチンを使用し、それで、副反応が出たことのある猫ちゃんでは、不活化ワクチンも接種できるように準備をしておりました。

この新しい3種混合ワクチンは、副反応の心配が少ない不活化ワクチンなのに、アジュバントを含んでいないというメリットに加え、強毒全身性猫カリシウイルスの予防も可能になったという、メリット盛り沢山のワクチンですので、開発されて以来、ずっと注目しておりました。ですが、新しいものは、未知なことだらけですので、約1年間、動向を見守っていたのです。

どうやら、この1年で、事故や副反応など、問題になる報告は無かったようです。このワクチンに移行している病院さんも増えつつあるようですので、当院でも、この新しいワクチンを採用することにしました。もちろん、「合わない」猫ちゃん用に、従来の、生ワクチンも準備してあります。

俗に「猫風邪」と呼ばれるヘルペスウイルスやカリシウイルス感染症は、ワクチンを接種していても、株の違いによっては感染してしまうことがあります。もちろん、接種していない場合に比べると、ウンゼンの差で軽症で済みますが、この新しいワクチンの導入で、グンッと感染が減るといいのになあ…と、期待マンマンです。

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2011年11月22日 (火)

100歳になった、うちのお祖母ちゃん

11月15日は、うちのお祖母ちゃんの、100歳のお誕生日でした。明治時代最後の年に生まれたお祖母ちゃんの、1世紀もの人生のうちの、私は、その半分も知りません。

祖母は女学校を出ているそうで、当時の女性としては、インテリだったようです。戦後間もない時代に、街まで出かけて、大好きなコーヒーを買い付けてくる、ハイカラな女性だったとも聞きます。私の幼少時代の印象としては、「キャラメル買ってあげるね~。」と私を甘やかそうとする祖父に、「虫歯になるから、ダメ!」ってなかんじの、しっかり者の祖母でした。

ずっと、離れて暮らしていましたが、祖父の他界後しばらくして、認知症の心配が始まったことで、両親と同居し始めたのが10年前です。それまで、大きな病気もせずだったことも、驚くほど健康なヒトです。同居し始めたころは、血液検査をしても、何も異常値が無いものですから、父が、ある意味心配になって、「私より長生きしたりしないでしょうか?」と、ドクターに尋ねたそうです。ドクターは、「データは良くても、長く生きている分、身体は傷んできているものですから、そんなことは(父より長生きする)ありえませんよ。」と笑って、おっしゃったそうです。

認知症も身体の老化も、少しずつ進行してきました。私のことが解らなくなり、父のことも解らなくなり、今、どこに住んでいるのかも解らなくなって。それでも、身体は元気でしたが、だんだんと、座っていることが多くなり、車いすになり。それでも、食欲だけは衰えなかったのが、3年前に、足を骨折して寝た切りになってしまったのをきっかけに、パッタリと、食べることまで忘れてしまいました。それからは、留置した胃瘻チューブから、流動食を注入することで、栄養補給を行っています。

抵抗力が低下しているので、しばしば肺炎を起こし、母から「今回は、もうムリかもしれない。」という連絡が、度々、入ります。ですが、「もう、ムリかもしれない。」から、10回は復活している、スーパーお祖母ちゃん。100歳のお誕生日は、穏やかに迎えることができたのが、家族にとって、何より嬉しいことでした。

日々、犬や猫の診療にあたっている感覚からすると、ヒトの老化は、ものすごくスローダウンに思います。犬猫に比べると、ずっと寿命が長いので、衰えるのもゆっくりなのは、理屈上、当然なことですが、ヒトの医療がスゴイのか、うちのお祖母ちゃんがスゴイのか、その生命力には感心させられます。10年間といえば、生まれた仔猫や仔犬が、お年寄りになる期間です。

「こんなにあっという間に歳をとってしまうなんて。」と、老齢になり、不調をきたした猫ちゃんのつらそうな姿に、「もう、猫ちゃんを飼うのはつらいから嫌だ…。」と、心痛めていらしゃるオーナーさんに、「命あるものの掟だから…。」と、言ってしまうのは、心無いことなのか、ご理解いただけるようにお話しなければならないことなのかと、悩むところではあります。

ですが、やはり、15年で寿命を迎える犬や猫、7年の兎、2年のハムスター。それぞれの速さで老いていくのが定めというもの。老いることを寂しくばかり思わずに、心和やかにしてくれる愛くるしい存在に感謝して、老いて行く姿も、いっそう愛しんで、付きあってあげたいものです。それには、あまり長生きされても…困るわけで…、100年生きる猫ちゃんなんて、誰も面倒みれないですから。

余談ですが、私のお祖母ちゃんのお母さん=ヒイお祖母ちゃんは98歳で他界しました。お祖母ちゃんは、今、100歳。ということで、私のノルマは102歳以上です。まだ、人生折り返し地点に及ばないわけですね。えらいこっちゃです。頑張らないとです。

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2011年11月14日 (月)

FIV(猫後天性免疫不全ウイルス感染症)疫学調査

興味深いレポートがありました。FIV(猫後天性免疫不全ウイルス感染症)に感染している猫ちゃんについての調査です。

2008年3月~10月の期間に、日本全国の動物病院に来院した猫の中で、最低週に1日は外出する猫を対象としたもので、合計1770頭もの猫を対象とした調査です。

1770頭中FIV(+)は410頭、つまり23%、4~5頭に1頭という結果でした。うち73頭(4.1%)はFeLV(猫白血病ウイルス感染症)も(+)だったそうです。これは、今までに言われていたFIV感染率、「日本国内の猫では10%」を超える結果でした。調査力の違いなのか、はたまた、以前よりFIV感染が広がったためなのか。恐るべし結果です。

年齢別のFIV(+)率は、0~0.5歳齢は0%ですが、0.5~1歳齢で13.7%、2歳齢で14.4%、3歳齢で28.7%と加齢とともに上昇し、4歳齢以上の猫では28~30%で(+)です。お外生活の経験が豊富なほど、感染リスクも高まるわけです。

♂♀の差は、縄張り争い、♀争いの喧嘩が多い♂の方が感染率が高いことは、知られていることで、FIV(+)猫中♂71.1%と大差です。ですが、♂の内訳として、未去勢♂32.6%、去勢♂38.0%と差がなかったことには驚きました。「どうしても外出するなら、喧嘩が減るように、せめて去勢手術をしましょう。」と、大昔に習ったし、そのように指導してきましたが、実のところ、外出したら危険は同じだったんですね。

その他、咬み傷を負ったことのある猫、何らかの疾患で来院した猫、口内炎のある猫では、そうでない猫に比べ、高い感染率であったとの報告でした。

これは、私の経験的感覚での想定とピッタリの結果です。外出る猫が、何かしらトラブルがあって来院したケースでのFIV感染率は30%くらいかなあ…と思っていました。

先日、「お外暮らしの猫で、FIVやFeLVに感染している猫は、どのくらいいるの?」という質問を受けました。するどい質問だと思います。私も、知りたいです。ですが、人慣れしていない猫も多い、お外で暮らしている猫から、統計にたる頭数分の採血をするなんて、ほぼ不可能です。ですが、今回の調査結果の、「最低週に1回は外出する猫」の23%よりは、はるかに高い感染率でしょう。仮に33%と想定すると、3頭のうち1頭が(+)ということになります。

人のHIV感染率と同じくらいとイメージされていて、猫のFIV感染率がそんなにも高いとはご存じない方が多いようにも思いますが、その事は、知識として良くご存じでいらっしゃっても、外出が習慣付いてしまって、「出せーーーー!!!!」と鳴き叫ばれると、根負けしてしまって、ついついね…、というのはよく耳にする言い訳です。そして、たいてい、「家の周りしか出ないから大丈夫。」「すぐに、帰ってくるから大丈夫。」「喧嘩はしないから、大丈夫。」と、「大丈夫」な理由をおっしゃいます。本当に大丈夫でしょうか。お家の周りを1周見回ってくる間に、「3頭のうちの1頭」に襲いかかられ負傷する危険は0%ではないはずです。

猫ちゃんにとって、相当危険なお出かけは、猫ちゃん自身の問題だけでなく、ご近所の方々へも思わぬ迷惑をかけているのです。よそのお庭で用をたっしてきているかもしれません。大切な植木や花を傷めているかもしれません。実家の母が、よくぼやいてました。「近所の○○さんとこの猫が、うちの庭に敷いた砂利をトイレにするし、ララ(当時、庭に居た中型犬)のドッグフードを堂々と食べに来てるのに、ララったら、それを黙って見てるのよ!情けない!」ララと同じく、○○さんに文句の一つも言えないものだから、ますます情けなく、悔しいんでしょうね。

「猫は自由に外出できる方が幸せ」なんかじゃありません。病気や事故の心配は倍増して、可愛そうなことになってしまいます。「猫は放し飼いにするもの。」でもありません。人様の迷惑にならないよう、ご自宅のスペース内でお世話するのが、社会のルールです。

外出が習慣付いてしまっていても、外出阻止は「無理」なことではありません。以前、一戸建てのお宅から、マンションへ転居されて、外出中止を余儀なくされた猫ちゃんがいました。転居当初は「出せーーーー!!!!」と、かなり鳴かれたようですが、根負けも何も、出せないものは出せない…ので、そのうち、猫ちゃんが根負けしたようでした。外出阻止断念続きのオーナーさん。「FIVに感染してもいいの!?」と言い聞かせて頑張ってください。

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