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2012年2月

2012年2月17日 (金)

肥満細胞腫

動物では、メジャーな腫瘍です。この診断名をお伝えすると、「脂肪細胞の塊なのか。」とか、「太りすぎたせい?」とか、誤解を招くことが、少々困ることです。

肥満細胞とは、脂肪とも肥満とも全く関係がありません。そういう名前の細胞で、主にアレルギー反応が生じたときに、炎症を起こす物質を放出して猛威を振るう細胞です。その、肥満細胞が、腫瘍化してしまったのが「肥満細胞腫」なのです。

ですので、肥満細胞腫とアレルギー反応も、また、関係ありませんが、炎症をおこす物質を放出するので、痒みが出たり、胃腸が荒れたりといった悪さをすることはあります。

皮膚にできるタイプと、肝臓や脾臓、消化管などの内臓にできるタイプがあります。犬の皮膚型は、悪性のものが多いのですが、猫の皮膚型は、挙動の大人しいものが多いとされています。

猫の頭部、四肢にできた小さな出来物が、実は肥満細胞腫のことがあります。確かに、生涯、体調には影響なく済むことが多いかもしれません。ですが、眼のふちの2~3mm程度の出来物が、眼だけでなく顔を覆うほどの大きさに成長したり、多臓器に転移することも、稀にですが起こります。ので、100%良性とは言えません。

猫の内臓にできるものは、悪性のものが多いとされています。嘔吐、下痢、食欲不振等の消化器症状が主になりますが、進行すると、腹腔内のあちらこちらに転移して、癌性腹膜炎を起こして腹水が溜まったり、肺転移を起こすような終末を迎えることもあります。うちにいた、ゆきお君も肝臓に肥満細胞腫ができていましたが、その終末は、突然のショック状態でした。この腫瘍にありうることですが、何らかの腫瘍細胞のダメージをきっかけに、一気に炎症物質が放出されると、致死的なショック状態に陥ることがあります。

治療法があるのか、ですが。腫瘍ですので、「治る」のは難しいことです。ですが、一概に肥満細胞腫といっても、グレードⅠ、Ⅱ、Ⅲとあり、グレードの低いタイプなら、外科的摘出手術、化学療法、放射線療法の組み合わせで、QOLの維持を図ることは可能です。リスク的に積極的な治療が無理でも、コルチコステロイドホルモン剤などの緩和治療が、QOL維持を助けてくれる期待は十分にありますので、ガッカリはガッカリですが、上手く付き合ってあげていただきたいものです。

ここ最近、ちょっとヘヴィな肥満細胞腫が2ケース続きました。1ケース目は、上唇が縁から溶けてくるように広がるタイプです。意外と、猫ちゃん自身は痒がりも痛がりもしませんし、鏡を見て悲観することもあるわけないのですが、その姿を見て「痛々しい…。」と心痛めるオーナーの心中察するばかりです。かなり高齢な猫ちゃんですし、病理検査で悪性度の低いものだという結果でしたので、副作用の強い化学療法はせずに、コルチコステロイドホルモン剤を中心にコントロールしていくことになりました。なんとか、長く現状維持ができますように。後は、神頼み、猫頼みです。

もう1ケースは、1年ぶりくらいに来院された、これも高齢な猫ちゃんです。呼吸が荒くて、咳をするとのこと。検査の結果、肝臓に肥満細胞腫が生じていました。カルテを見返してみると、今回、高値だった肝数値は、1年前は、ほんの少しだけ高めでした。ここ1年間、調子良かったとのことでしたが、始まりの始まりは1年前だったのかもしれません。そう考えると、悔やまれるものの、ほんの少し肝数値が高いだけで、他には、らしき所見も無く、腫瘍を疑うには及びようもありませんでした。

なんと、レントゲン的には、すでに、肺転移を疑う所見ありです。肝臓は、「沈黙の臓器」と呼ばれ、自覚症状を主張できるヒトでさえ、かなり症状が進行してから受診するようなケースがあると聞きます。この猫ちゃんも、呼吸が荒くなるまでは、不思議と調子悪く無かったそうです。早速、コルチコステロイドホルモン剤を中心に、対処開始しましたが、せめて、息苦しいのを少しでも緩和できるように、尽力したいと思います。

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2012年2月 2日 (木)

猫の三徴症

三徴症の「三」とは、十二指腸、膵臓、肝臓の三臓器のことです。この疾病名を、よく耳にするようになって、まだ、20年も経っていないでしょうか。

この三臓器すべてに炎症が生じた状態のことです。まず、胃~十二指腸に炎症が生じ、引き続き膵臓に、次いで肝臓にも炎症が波及することによるとされています。「猫の」というからには、猫に特徴的に生じるのですが、これには、猫ならではの内臓の構造が関係しています。

まず、膵臓から十二指腸へ消化液を流しだすための膵管が、犬では2本あるのに、猫には1本しかありません。ですので、十二指腸に炎症が生じ、その開口部がふさがってしまうと、2本ある犬なら、もう一方が機能してくれるのですが、猫では膵液の出て行き場を失い、膵液が自らの膵臓を消化して壊してしまうという、恐ろしい悪戯を起こします。

もうひとつ、猫ならではのトラブルメーカーは、胆嚢から十二指腸へ胆汁を流し出すための胆管が、膵管と合流して十二指腸に開口していることです。そのため、膵臓に生じた炎症、感染は、容易に胆嚢へも波及してしまうのです。

以前は、膵臓に炎症が生じているということを証明するすべがありませんでした。犬では、激しい腹痛が特徴的ですので、それを指標にしましたが、猫では、それほど顕著ではありません。超音波検査が一般化してからは、膵臓の周りの脂肪が炎症を起こしている様子から、膵炎を疑えるようになりましたが、この変化は、初期には観察されません。今は、「膵特異的リパーゼ」という血液中の酵素量を測定することで、確実な診断が可能になっています。検査センターに依頼しなければ測定できないので、2日ほど時間を要すのがネックですが、治療方針を考える上では、貴重な情報です。

こういった診断技術が無い時代には、「そうだ」と言い切れなかっただけで、恐らく、以前から、「猫の三徴症」は多く生じていた疾病だろうと思われます。当院でも、軽症のケースから、重症のケースまで、それらしい猫ちゃんを多く診療しています。「それらしい」というのは、検査を依頼するまでもなく治まってしまったケースでも、そうなりかけていたか、軽症だけどなっていたかも…と思うケースがあるからです。

症状、経過、検査結果から、間違いなく、この「猫の三徴症」で、しかも超重症猫ちゃんの治療に、なんと12月からずっと奮闘中です。猫ちゃんも、ご家族も、本当に頑張って闘病しているのですが、改善、悪化、改善…と踏ん張るものの、なかなか安心なところまでたどり着きません。突然の嘔吐、食欲不振に始まり、たった2~3日のうちに黄疸が出始めました。これはヤバイと思い「猫膵特異的リパーゼ」の測定を依頼したところ、かなりの高値です。これぞ「猫の三徴症」しかも、黄疸がひどくて、かなりの重症です。

幸い、嘔吐が速やかに治まったので、すぐに、鼻の穴から食道内へ管を入れて、流動食や内服薬の注入を開始しました。絶食は肝臓疾患の敵なのです。とくに、ぽっちゃり猫ちゃんが絶食続きになると、体脂肪を肝臓に送りこんでエネルギーを調達しようとしますから、脂肪肝が重症化してしまいます。鼻から管が入っている様は、可哀そうに思われるかもしれませんが、無理やり流動食を飲まされるストレスよりはずっと良いと思います。

口から飲ませるとなると、薬の種類や量も制限されますが、管から注入するなら、容易に内服させることができます。膵臓の炎症を抑える薬、胃腸の動きを良くする薬、胃酸を抑える薬、抗生物質、利胆剤、強肝剤、ビタミン剤、食欲増進剤、などなどなどなど。必要と思われる薬の総動員です。

もう1つ、肝臓の治療に有効な、アミノ酸補充療法も管から注入するなら容易です。肝臓でのタンパク質代謝が悪くなると、代謝産物のアンモニアがたまり過ぎて具合が悪くなってしまいます。そのため、一般的な肝臓病食は、蛋白質量を少なくしていますが、そうすると、身体の回復に必要な栄養が不足してしまう問題が起きてしまいます。そこで、肝臓で代謝されるアミノ酸は制限して、筋肉で代謝されるアミノ酸を多く補充することで、アンモニアが発生し過ぎることなく、アミノ酸を有効利用できるように仕向けるのが、アミノ酸補充療法です。

大学で肝臓疾患を専門とされてらっしゃる先生が、動物用に開発されたアミノ酸補充のためのサプリメントがあります。一般のワンちゃん、猫ちゃん用に、健康管理のための栄養補助食品としても販売されていますが、獣医師処方用のものは、肝臓治療のための配合になっています。人参、ブロッコリー、かぼちゃ、しいたけを、加熱することなく細かく粉砕する技法で作られていますので、野菜そのものの甘みがあって、嗜好性は良いようです。食欲のあるワンちゃんなら、フードにふりかけてやれば、たいてい食べるようですが、味にうるさい猫ちゃんはどうでしょうか…。1日量は小さじ山盛り2杯くらいの量なので、飲ませるとなると大変ですが、溶かして管から注入するのなら容易なわけです。

先日、このサプリメントを開発された先生の講義をお聞きする機会がありました。日頃の診療では、黄疸で黄色くなってしまうほど重症になると、なかなか、救うことができないのが現状ですが、これを何とか救う「いい手」はないものかと、お伺いしてみました。お答えは、「猫は難しいねェ…。」でした。肝臓病専門の大先生がため息つくほど、黄色くなった猫は難しいんですねェ…。頑張ろうね、マルちゃん。

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