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2012年3月

2012年3月30日 (金)

アンテドラッグ・ステロイド

アンテドラッグとは、何ぞや。難しく説明すると、「局所で作用を発現した後、速やかに分解され、全身性副作用の発現の可能性を低減することを目的に設計された薬剤」のことです。

副腎皮質ホルモン剤(コルチコステロイド)を、略してステロイドと呼ぶことがあります。このステロイドは、アレルギー性皮膚炎の特効薬ですが、副作用として、肝障害や糖尿病、副腎皮質機能亢進症(クッシング症候群)を引き起こす心配もある薬剤です。

投与量を減らすために、外用薬で済ませるという作戦もありますが、従来のステロイド外用薬は、皮膚からも吸収されてしまうので、外用薬の使用量や頻度によっては、注射や内服と同等の副作用を生じかねません。

そこで、この度、開発されたのが、『アンテドラッグ・ステロイド』です。皮膚に噴霧すると、30分位で皮膚内部へ浸透し、炎症を鎮める効果を発揮しますが、その後、分解されて体内には吸収されない仕組みの薬剤です。

ただし、体内に吸収されないからといって、全く副作用が無いわけではありません。ステロイドの作用を強く受け過ぎると、皮膚が薄くなってしまったり、感染しやすくなったりといった、局所の副作用は起こり得ます。ですので、決められた用量を守り、最小限の使用に留める工夫は必要です。

皮膚炎がひどい時は、1日1回噴霧を1週間継続しますが、1日おきに1回、週に2回と、最小限の使用でコントロールできるのが理想的です。

皮膚のバリア機能を整えるような薬浴剤や外用薬の併用は、アレルギー原因物質の侵入を防ぐ効果大ですし、質の良い食餌管理をして、身体の中から、アレルギー反応を起こしにくい体質改善を図ることも重要です。

それでも、アトピー性皮膚炎は治ることはありません。薬剤の副作用を最小限に留めながら、QOL維持できるようにお付き合いしていかなければなりませんから、この『アンテドラッグ・ステロイド』の開発は、とても嬉しいことです。

ただ、ひとつご了承いただかなくてはならない事情は、「犬用」として販売されていることです。発売に当たり、国の認可を受けるには、効能が確かで、安全性を保証できるというデータを提出しなければなりませんが、これが結構コストのかかるものなのです。猫での認可も受けるとなると、倍のコストがかかってしまいます。

ですが、すでに、先行発売されているヨーロッパでは、猫にも認可されており、むしろ、犬より猫への使用が多いそうです。ですので、実質、猫での効果、安全性はお墨付きということなので、心配なく使用していただけます。

軟膏のようにベトベトせず、サラッとしているので、猫ちゃんならではの、薬剤の付着を気にして舐めるという問題も少ないようです。が、薬剤の浸透には30分位要しますので、その間はエリザベスカラーを装着するか、遊んであげたり、食餌を与えて気を逸らせるなどして、舐めないようにしなければなりません。

この『アンテドラッグ・ステロイド』は、皮膚炎のコントロールに苦戦しているなら、アイテムのひとつに加えてみる価値ありだと思います。

*訂正とお詫び* 先行販売されているヨーロッパでは、猫への使用報告はたくさんありますが、コストの関係上、認可は犬でしか取得されていないようです。訂正してお詫びもうしあげます。

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2012年3月24日 (土)

ルナちゃんの咳

私事ではありますが、先日、この1月に100歳で他界した祖母の49日法要がおこなわれました。そんなことでもないと、なかなか、実家に寄る機会もないので、実家の愛犬ルナちゃんとも、久々の再会です。

ルナちゃんは、見た感じシーズーMIXの小型犬です。保護した時を約1歳とすると、もう16歳になります。若いころは、訪れるとしっぽブンブンの大はしゃぎで出迎えてくれましたが、ここのところ、呼ばれたから仕方ないくらいのノリで、のっそのっそと寄ってきて、とりあえずのご挨拶に、しっぽをプルンと一振り、で終わりです。

小型犬の16歳といえば、人の80歳くらいにはなりますでしょうか。100歳だった祖母には、まだまだ及びませんが、十分高齢です。そのわりには、今のところ大病もせずにきているので、助かっていますが、ボチボチ色んなトラブルを覚悟せねばなりません。仕事を定年退職し、孫も手のかかる歳でもなくなった母にとって、一番の心のよりどころとなっているルナちゃんですから、頑張ってもらわないといけません。

この日は、「ルナちゃん!」と呼びかけても、お座布団の上で丸まったまま、こちらを見上げて、お愛想のしっぽ一振りさえなかったことを、少々、気にかけつつの法要でした。なので、法要後の会食中に、弟から「先日、ルナが咳してた。」と報告を受けてドキドキです。

ルナちゃんは、7歳の頃に、心臓の僧帽弁閉鎖不全症があることが発覚して、それからずっと、血管拡張剤を内服しています。今だ、咳、呼吸困難などのトラブルが生じた事はありませんが、レントゲン検査をするたびに、心臓は大きくなる傾向があり、着々と病状は進行している模様です。

「え!?ついに、来たか!?」のドキドキですが、母からは何の報告もありません。ですが、心臓病の咳は朝方に多いのですが、歳のわりに夜更かし朝寝坊型で、少し、耳も遠くなった母が、朝方の咳に気が付くとは思えません。それに、手前味噌ではありますが、弟の観察力は、素人にしては、案外、的確だったりします。すでに他界している中型犬のララちゃんが、尿道に結石が詰まって、尿が出なくなった時、「排尿の格好をしても、尿が出ないことがある。」と、恥ずかしながら、私より先に気付いたのは、弟の方でした。

咳が出始めているなら、利尿剤などの手助けを加えなければなりません。レントゲンや超音波検査で、その必要性を評価して、血液検査で他臓器への影響をモニターしながら投薬量を調整しなければいけませんから、実家のバタバタが落ち着いたら、検診に来てもらうことにしましょう。幸い、ルナちゃんは車でお出掛けするのが大好き。母が運転する車の助手席に、ちょこんと座ってやって来ます。

ルナちゃんの病状が、ひどくなってから慌てるなんてことのないように、実家に寄るときには、「聴診くらいしてこなきゃ…。」と思いながらも、いつも、聴診器を持っていくのを忘れてしまいます。「少し、耳が遠くなった」などと、母を年寄り扱いしておきながら、自分も、物忘れが多くなったんじゃないかと、イヤなドキドキを秘めながら、「また、忘れちゃった。」と、こっそり、ルナちゃんにゴメンなさいしてきました。

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2012年3月 9日 (金)

3月10日(土)午後休診のおしらせ 

3月10日(土)

学会出席のため、午後臨時休診とさせていただきます。

午前診は通常とおり、おこなっております。

ご迷惑をおかけいたしますが、ご了承のほどお願い申し上げます。

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2012年3月 7日 (水)

へえー

とある療法食を扱うメーカーさん主催のセミナーに参加したのですが、そこでお聞きした、ちょっと、「へえー」って思ったお話です。

メインテーマは皮膚病用の療法食についてでしたが、結論を先に言ってしまうと、「どんな皮膚病にしたって、ええもんを食べなアカン。」ということです。

皮膚病と一言で言っても、原因は様々、それにより治療も様々です。治るたぐいのものもあれば、治らないたぐいのものもあります。オーナーさんや、獣医師を悩ませるのは、治らないものに決まってます。その悩ましいものの大多数がアレルギー性皮膚炎でしょう。

とくに、環境中にあるアレルギー物質吸入によって生じるアトピー性皮膚炎は、原因を無くすことが不可能なだけに、いかに症状を緩和させて、心地よい暮らしができるようにするかが目標です。

そこで、「ええもんを食べなアカン。」理由です。

皮膚は、層状の構造をしていて、外界にある良からぬものが侵入してくるのを防御するためのバリア機構を持っています。表面の細胞は、古くなり役目を終えるとフケや垢となりはがれ落ちて、その下の細胞と置き換わります。皮膚では、最も深部で生まれる新しい細胞が、形を変えながら表面方向へ順次移動して行き、古い細胞とバトンタッチしていくという繰り返しを、延々と続けられているのです。

この繰り返しは、人は4週間、動物では3週間で一巡しますが、この一巡をターンオーバーと言います。よく、基礎化粧品の宣伝に出てくるワードですよね。正しいターンオーバーを保ち、上等なバリア機能を持つ皮膚でなければ、容易にアレルギー物質や、紫外線、その他刺激を与える物質が侵入してしまい、皮膚炎を悪化させてしまいます。

バリア機構を手助けするような、保湿剤や外用薬は、それはそれで大いに手助けとなるすぐれものですが、正しいターンオーバーを維持するために最も重要なことは、食生活です。バランスのとれた質の良い栄養です。人なら、加えて、睡眠時間や紫外線予防などのケアーも重要なんでしょう。

そこで、「へー」って思ったこと。身体の容積に対する皮膚の占める割合は、身体の小さな動物ほど大きくなります。人は5%程度ですが、10KGほどの中型犬で20%にもなり、摂取した栄養中30%もが皮膚に費やされるのだそうです。だから、より、食生活の影響が大きいのです。

もっと、「へー」って思ったこと。お手製フードを与えていて、皮膚炎がひどくなったワンちゃんの、良質なフードに変更してから1ヶ月後との『before→after』です。外観写真でも、その違いは歴然ですが、皮膚の病理検査写真で見る、ミクロな構造の違いったら、ビックリです。『before』では表面の細胞はボロボロに浮いてしまい、下層の細胞も隙間だらけで、ガタガタです。一方『after』では、表面の細胞はピタッと平面をつくり、下層の細胞も整然と規則正しく、隙間なく整っています。

アレルギー性皮膚炎は治りません。でも、いかに軽症で済ませるかという点では、努力のかいもあるというもの。まずは、ええもんを食べなアカンのです。

人も犬も猫も、理想的な栄養バランスはそれぞれです。人の感覚で動物の食べ物を管理したのではダメなのです。それと、バランスさえ良ければ良いというものでもありません。品質も重要です。「品質を問わなければ、古い革靴1足あれば、動物に必要な栄養素、つまりはタンパク質、脂質、炭水化物…等は、まかなえるのだ。」と言った栄養学者さんがいます。超安売りのペットフードは、一体どんな材料から作られているんだろうと考えると、ゾッとするものがあります。

今回、ご講演いただいた療法食メーカーさんでは、高価な療法食と、もう少しリーズナブルな一般食に近い療法食とを販売されています。「何が違うの?」という質問へのお答えは、①皮膚炎を抑える効能のある成分や、皮膚の状態を改善するための成分の配合、②材料の品質=価格だそうです。いたずらに価格を引き上げているわけではありません。価格なりの、効能、品質なのです。

あの、ミクロレベルでの皮膚構造の違いを見せられると、ちょっと、自分の食生活も反省せんでもありません。ボロボロ、ガタガタのお肌にならないように、ええもん食べるようにします。

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2012年3月 1日 (木)

y/d

情報通の方なら、もうご存じかもしれませんが、この度、日本で新たに発売されることになった、猫用の甲状腺機能亢進症の療法食です。

私が大学生の頃、甲状腺機能亢進症という疾病は、まだまだ、獣医療先進国のアメリカでさえ、トピックス的扱いでした。日本の教科書には載っていませんでしたし、日本にはあまり無いかのような話さえありましたので、いい加減なものです。今になってみると、無かったのではなく、診断できなかっただけだったのです。

あの頃、内科の授業で、英語の文献を翻訳して発表するという課題を与えられたことがありましたが、私の担当した文献が「甲状腺機能亢進症」でした。その文献には、「高齢の猫で稀に発見されることがある疾病で、食欲は旺盛なのに、ガリガリに痩せて、眼ばかりギラギラと眼光鋭く、落ち着きなく動き回る。」とありました。

その後、発症初期には、むしろ旺盛な食欲のために太っているケースもあるとか、必ずしも、落ち着きなくなるような行動変化を伴うわけではないことも知りましたし、実際、当院で加療中の猫ちゃんにも、デブデブだし、診察台の上でも、「ボ~~~~…。」っとしてるアメリカンショートヘアーさんがいます。この猫ちゃんは、健康診断でたまたま見つかったため、まだまだそれらしい症状が無いのでしょう。

甲状腺機能亢進症のもたらす悪さには、様々なものがあります。嘔吐・下痢などの消化器症状。変に鳴き叫んだり、被毛を食いちぎるなどの行動の変化。多飲多尿。肝臓障害。糖尿病を誘発。高血圧。心機能障害。等々ですが、かなりのヒット率なのは、「良く食べるのに、痩せてきた。」と心配して来院されるケースです。

様々な悪さから、猫ちゃんを守る対策としては、過剰に甲状腺ホルモンを産生している、甲状腺を外科的に摘出する方法と、内服薬で甲状腺ホルモンの作用を抑える方法です。多くのケースで、リスクが少ない内服薬でコントロールする方法がとられていると思います。

この度、発売されたy/dは、甲状腺機能亢進症をコントロールする3つ目の方法です。甲状腺ホルモンを産生するための材料である「ヨード」の摂取量を制限することで、甲状腺ホルモン量をコントロールする作戦です。アメリカでは、すでに先行発売済みで、大勢の猫ちゃんで良好な効果が得られたという実証済みです。

内服しなくて済むのは、オーナーさん的にも、猫ちゃん的にも、わずらわしさやストレスのない喜ばしい治療法です。ですが、すべてのケースで上手くいくわけではありませんから、治療効果をモニターしながら、効果が不十分なら他の手段を考えなくてはなりません。

それに、食餌療法の最もネックになる点は、「食べてくれるか。」です。メーカーさん曰くですが、このy/dは、かなり嗜好性が良く、アメリカでの実績では、「食べなかった猫ちゃんはいない。」のだとか。(ほんまかいな。アメリカ人はオーバーなんか?アメリカ猫は味に無頓着なのか?)なんて思ってはいけませんね。アメリカでは食餌管理が良いので、なんでも食べる優秀な猫ちゃんばかりなのでしょう。さて、日本の猫ちゃん達のお口に合いますでしょうか。

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