« 2012年4月 | トップページ | 2012年6月 »

2012年5月

2012年5月25日 (金)

猫の角膜潰瘍

「角膜」とは、眼の一番表面の膜のことです。「潰瘍」とは、深くえぐれた病変のことをいいます。ヒトの病気で「胃潰瘍」というのは、よく耳にすることと思いますが、胃の粘膜が深くえぐれる病気です。「角膜潰瘍」は、その眼バージョンなのです。

当たり前ですが、とっても眼が痛くなります。なんですが、意外に動物の「眼が痛いよ!」サインを理解されずに来院されることがあります。「眼を開けずらそうにする。」「眩しそうにする。」「涙が多い。」すべて、眼が痛いときの症状です。

角膜潰瘍になる原因は様々で、とくに、犬では、単純な外傷以外に、涙が少な過ぎる、まぶたがめくれ込んで角膜に当たる、逆さまつ毛がある、細菌感染をおこした等々、多岐にわたります。角膜の傷が普通通りに治ろうとしない、特殊な体質の持ち主もいます。

一方、猫の角膜潰瘍ですが、もちろん、単純な外傷ということもありますが、やっかいなもののほとんどは、ヘルペスウイルス感染が関係しています。猫のヘルペスウイルスは、伝染性鼻気管炎の原因ウイルスで、結膜炎、鼻炎が主な症状の病気をおこします。そして、ヒトのヘルペスウイルスもそうですが、細胞内に潜んで居座ってしまう性質を持つウイルスなので、免疫力の弱った時に、繰り返し発症したり、持続感染をおこしてしまうやっかいものなのです。

Kakumakubunri1 角膜潰瘍になると、眼の表面が溶けたゼリーのようになって痛々しいです。涙いっぱいの眼をショボつかせて、「まいった…」顔です。黒いカサブタのようなものが出来てしまう角膜分離症(黒色壊死症)に進行するケースもあります。角膜分離症(黒色壊死症)は、浅いものなら、自然にペロッとはがれてくれることもありますが、深いものでは、はがれると同時に穿孔=つまりは穴が開いてしまうなんて恐ろしいことにもなりかねません。状況によっては、黒い部分を切り取って、その部分に、白眼の結膜を薄くはがした膜をかぶせてカバーするような手術をしなければならないこともあります。

「ウイルスに対する抵抗力があれば自然に治る」と、ものの本には書いてあるのですが、抵抗力がないから、なってしまってるわけで。「そんな簡単に治らへん!!」と暴れたくなるほど、困らせものです。もっとも、「自然に治る」猫ちゃんは、動物病院に来ないから、診る機会がないだけで、その本も嘘はついてないんでしょうけど。

治療のメインテーマは、ヘルペスウイルスと闘う免疫力の手助けです。猫用インターフェロンを注射する、もしくは、点眼薬として使用するという手もあります。L-リジンというアミノ酸製剤も、免疫増強効果があります。ヒト用の抗ヘルペスウイルス薬の点眼薬や、内服薬を使用することもありますが、これで、ウイルスが完全消失するというものではありません。

いくつかある、やっかいな猫病のうちの1つです。

|

2012年5月17日 (木)

歯のお手入れ色々

私達は、幼少の頃から歯磨き指導を受けていて、当たり前の習慣として行われているでしょうし、それでも、付いてしまう歯石を、定期的に歯医者さんに除去していただいたほうが良いことも、皆様ご存知だと思います。

なのに、「猫も歯を磨くんですか?」と驚かれる方が多いのです。確かに、ヒトの歯と全く同じではなく、歯表面のエナメル質がとても丈夫で、ヒトのようにむし歯(う歯)が問題になることは、あまりありません。ですが、歯垢がたまり歯石となり、歯周ポケットに入り込んだ歯石が、歯周炎や歯槽膿漏、歯根炎を引き起こしてしまいます。

「食べた後、口を手で掻く」「食べる時、痛そう」「食べたそうなのに、食べない」「ヨダレがひどい」などなどのレベルで病院を訪れる段階では、歯槽膿漏、歯根炎を起こしてしまっていて、抜歯をせざるを得ない状況になっていることがほとんどです。それも、たいていは、ダメな歯だらけで、複数本の抜歯が必要になります。

ヒトでは、歯槽膿漏、歯根炎を起こしてしまっても、食物の消化のためだけでなく、発声や美観上も重要ですから、極力、歯を維持出来るように治療するでしょう。もっとも、ヒトのほうが痛みに敏感ですし、自己主張できますから、まだまだ軽症のうちに治療するから可能なことと、治療中のケアーも十分にできるという点が、動物とは違っています。

動物でも、まだ軽症であれば、歯槽膿漏を治療することはできます。歯周ポケットの中をキレイにした後、下がってしまった歯肉を引き上げ、元の位置になるよう縫合して、歯にフィットさせて再付着をはかるのですが、歯肉のマッサージをしたり、食物のカスや歯垢が入り込まないように、隅々まで歯間ブラシを使って清掃しなければなりません。このケアーができなければ、治療は失敗に終わります。

ですので、ある歯科専門の先生は、歯槽膿漏の治療を希望されるオーナーさんには、治療に先だって1週間ほど、治療後にしなければならない歯の清掃ケアーをやってみていただくのだそうです。それができるオーナーさんでしか、治療を引き受けないそうです。

実際、痛くなってしまってからケアーを始めるのは至難の業でしょう。最もスムーズなのは、全く、警戒心の無い仔猫、仔犬の頃から始めることです。まずは、口を触ることに慣れさせます。遊びながら、口を開けたり、触ったり。キャットフードの粒を口の中まで入れるのも良いでしょう。粒をそのまま飲み込むくらいに奥までいれる訓練をすれば、錠剤を飲む訓練にもなりますので、お勧めです。

お口を触られることに抵抗が無いようなら、指でこする、ガーゼで拭く、歯ブラシで磨く…と、レベルアップです。ある程度、大きくなってから始める場合も同じことですが、猫ちゃん側の警戒心次第で、出来ることも限られてはしまうでしょう。歯ブラシで磨くのがベストではありますが、それが難しい場合のお助けグッズが色々ありますので、試してみてはいかがでしょうか。

Unnamed_2歯ぐきに滴下するジェル剤で、口の中に広がる仕組みになっていますので、唇をペロッとめくって、左右1滴ずつくらい垂らすだけです。細菌の繁殖を抑える酵素が効果を発揮します。

Img56778265_2 歯磨き効果のある猫ちゃん用おやつです。猫ちゃんの大好きなフィッシュ味です。シャクシャクと咬むことで、研磨されて歯の汚れがとれる仕組みと、含まれている細菌の繁殖を抑える酵素が、口の中に広がることで効果を発揮します。

Paste_fish02猫ちゃん用シーフードフレーバーの歯磨きペーストです。細菌の繁殖を抑える酵素が含まれています。歯ブラシやガーゼなどに付けて歯磨きすれば、効果アップですし、美味しい味で歯磨きが大好きになってくれる期待も大です。

それでも、頑張ってケアーをしても、年数を重ねれば、多少ずつ歯石は付いてきますので、歯周が赤くなり始めたら、歯石を取る処置を受けるのが賢明です。いったん、歯周ポケットが出来てしまうと、元には戻せません。それに、歯石は歯だけの問題でなく、歯周から入り込み続ける細菌が、全身にまわって、心臓、腎臓、肝臓など、あらゆる臓器にダメージを与えてしまいます。

動物の場合、歯石を取る処置をするには、全身麻酔が必要になりますので、二の足を踏んでしまうところではありますが、高齢になってから歯槽膿漏に苦しみ、危険いっぱいで全身麻酔での治療を受けなければならなくなることを考えると、若いうちからのマメなケアーは、とっても大切です。

|

2012年5月10日 (木)

イカ耳

先日、患者さんとお話していたら、「…イカ耳になってしまって…」とおっしゃられたので、「イカ耳?」と思わず聞き返してしまったのですが。チマタのにゃんこファンの間では、猫が警戒している時にふせる耳のことを、「イカ耳」っていうんですね。なるほど、確かに。恥ずかしながら初耳でしたが、ネットで検索するとヒットしたので、それほどメジャーなのに初耳だったことにも、ちょっとビックリです。

E606d13fc0f48480854f55710a3d8fff 猫ちゃんと暮らしていると、猫ちゃんならではの色んなお決まり仕草は自然と知ることになるので、「イカ耳」をはじめ、ご機嫌な時の「ゴロゴロのど鳴らし」や、「手でモミモミ」なんかも、にゃんこファンなら当たり前にご存じなことと思います。ですが、初めて猫を飼われた方が、そのゴロゴロを心配されて来院されることがあります。

「呼吸がおかしいんです!」それは、一大事だと思いながら診察するも、とっても元気そうですし、呼吸もおかしくありません。よくよく、お話をお伺いすると、どうやら、気分良い寝入りばなにゴロゴロ…まあ確かに、「ゴロゴロ」ではなく、「ブゥーブゥー」と息が詰まりそうな音をたてることもありますね。苦しがってると勘違いされたようです。

「この仔、まだ、おっぱい探すみたいに手をモミモミするんですけど、まだミルクが必要なんでしょうか?」と、もう、中猫の域に入っているのに、ご心配される方だっていらっしゃいます。猫ちゃんがご機嫌な時にする仕草なのであって、年寄りになっても続くことだとご説明すると、ひどく驚かれてらっしゃいました。「うちのオッサン猫も、毛布でモミモミしてます。」と言うと、「エエー。。。」とちょっと、ショックなようでした。かわいい仔猫ちゃんの仕草だと思われていたようです。オッサン猫のモミモミも、かわいいけどなあ…。

そんなことを思い出しついでに、学生時代のこんなことを思い出しました。

私の在学していた大学では、教養課程の心理学の授業には、某有名私立エリート大学から講師の先生がいらっしゃっていたのですが、その授業で、10パターンほどの犬の尾のイラストがあり、それぞれについて、「嬉しいとき」「怖いとき」など説明付けをするといった課題がありました。(そんな、当たり前の話を…)と私だけでなく、ほとんどの同級生も思ったでしょうね。

学年中の正解率は、尾を振る=「嬉しいとき」、尾をまるめ込む=「怖いとき」など単純なものは100%。「攻撃する」「威嚇する」「怖がりながら威嚇する」など、ちょっと複雑なもので、90%という結果でした。他大学の学生さんに比べるとかなりの好成績だそうで、「さすが!君たちは、獣医科大学生だけあるなあ!」と先生、大興奮です。

(え?こんなの常識じゃないの?)と不思議顔の学生一同でしたが、その某有名私立エリート大学では、正解率50%だったと聞いて、「えーーーー!?!?!」と今度は、学生一同が大興奮です。エリートなのに、こんなことも知らないの?っていうか、こーゆー事って、別に常識じゃないの?というか、自分達、難しいこと知らないけど、こんなことだけ知ってるのか。。。しかも、全員揃ってだから、先生が大興奮するくらいスゴイのかもしれない。

獣医科大学生は、やっぱり動物好きの集まりだった。妙に感心させられた出来事でした。

|

2012年5月 1日 (火)

放射線治療

先日、放射線治療についての勉強会がありました。講師は、大阪府立大学で放射線療法を担当している先生です。

私が、学生だった頃は、動物に放射線療法なんて、あり得ないことでした。今でも、限られた施設でしか治療を受けることはできません。

放射線治療にも、種類があって、浅い部分にしか有効でないものと、深いところや、頭蓋骨の中などの骨に囲まれたところへも到達するものに分かれます。もちろん、後者のほうが、設備は高額で、おのずと治療費も高額となるのですが、こちらの設備を持つ施設は、更に限られるのです。

大阪府立大学付属動物病院は、数年前に、堺市中百舌鳥からりんくうタウンへ移転した際、さらに設備を充実させて、ますます近代的な病院となりました。

完成したばかりの頃に、見学させて頂いたことがありますが、キレイで明るく開放的な空間、多数ある診察室、検査や処置がスムーズに行えるよう配置されている機能的な動線。手術室を上階からガラス越しに見学できる手術室なんて、テレビドラマに出てくるヒトの大学病院かのようです。

そして、何よりのお宝は、CT、MRI撮影装置もそうですが、関西にはここしかない放射線治療機です。こればっかりは、見たこともないものなので、「ふーん。。。」としか感想はでません。レントゲンなどとは比にならない放射線量を使用するため、その被爆防御のための「造り」ひとつまでも、「ほおー。。。」でした。

この放射線治療の対象となるものは、①手術では取れない腫瘍、かつ、②化学療法が無効な腫瘍、かつ、③放射線治療で効果がある腫瘍となります。多いのは、口腔内や鼻腔内、眼の奥の腫瘍、脳腫瘍、肢先の腫瘍などです。

口腔内にできた腫瘍が顎を溶かして食べることができなくなったり、出血が止まらなくなったり、鼻腔の腫瘍のために息ができなくなったり、眼の奥の腫瘍のために眼が飛び出して、納まらなくなったり。頭部の腫瘍は、進行してしまうと、動物の苦痛も、ご家族の心痛も甚だしいものが多いのです。

放射線治療で、腫瘍すべてが消えて完治するなんて、そこまで期待するのは難しいです。ですが、口腔内の腫瘍が小さくなり、出血が止まり、食べるに困らなくなる。鼻腔の腫瘍が小さくなり、呼吸が楽になる。飛び出て、瞬きできず、乾いて傷が絶えなかった眼が、マブタの中に納まる。そんな生活レベルを維持できるかどうかは、動物とご家族にとっては、大きな成果に違いありません。

講師の先生に、実際、放射線治療を受けた症例をいくつかご紹介いただきました。鼻腔腫瘍のために、恐ろ恐ろしく腫れあがった顔の猫ちゃんが、治療開始後、普通の顔に戻っていきます。それでもCT画像上は、腫瘍細胞が残っているのがわかります。「へえー。。。」と感動?感心?です。

放射線治療は、通常、分割照射されます。腫瘍の種類、場所などから算出された、必要とされる総放射線量を、より効果的で、健常な組織のダメージが最小限で済む回数、間隔で照射するのです。

放射線治療の選択があることは、他に手立てが無いような腫瘍では、とてもありがたいことなのですが、間違いなく重症の動物に、照射の都度、全身麻酔をかけなくてはならないリスクや、ご家族にとっては、通院に要する時間、費用のご負担は、その選択を迷う理由だと思います。

例えばこの症例の治療費なら…と、紹介くださった治療費は、「はあー。。。」な、感想です。安くはありません。でも、設備投資を考えると、その価格では成り立たないに違いない価格です。大学病院ならでは、獣医療の進展のための投資と考えて、多分に歩み寄った価格なのでしょう。

近頃、テレビで、「高度医療も対象になる保険」のCMを見かけますが、(私も、あーゆーのに入っておこうかなあ。。。)ちょっと、考えてしまいました。

|

« 2012年4月 | トップページ | 2012年6月 »